第63章 冨岡義勇の葛藤〜冨岡義勇
屋敷に辿り着くと、そこには任務の疲れも見せず、端然と座る義勇の姿があった。
「義勇さん…」
傍らには、共に任務をこなした胡蝶しのぶが、親しげに微笑みながら語りかけていた。
「お疲れ様でした…冨岡さん。今回の共同任務貴方の不器用さには閉口しましたけれど、助かりましたよ」
「……あぁ」
短く答える義勇の視線が、不意にこちらに向けられた。
一ヶ月ぶりに合うその瞳。
ゆきの心臓は止まりそうなほど高鳴った。
「師範、お帰りなさい…」
駆け寄ったのゆきの声に、義勇の眉が微かに動いた。
しかし、義勇はすぐに視線を逸らし、冷淡な声を出した。
「あぁ…戻った。報告なら後で聞く。今は胡蝶と話している、下がっていろ」
その突き放すような言葉。
けれど、ゆきの首元——無一郎が執拗に指でなぞった、隊服で隠しきれない僅かな「跡」に、義勇の視線がほんの一瞬だけ、釘付けになった。
「冨岡さん?」
しのぶが不思議そうに覗き込んだ。
義勇は膝の上で拳を握りしめ、低い声で話した。
「ゆき…。襟元の跡は…何だ!?」
「あっこれは…その」
ゆきが、首元を手で隠した。
「何か怪我でもしたのか!?だが、お前は時透の屋敷にずっと居たのだろう?」
義勇が、ゆきの側までより襟を開こうとした。
「だ、大丈夫です!?」
ゆきは、襟元を押さえて見せようとしなかった。
しのぶが、ゆきに必死な義勇を見て少し腹が立った…。
「冨岡さん!?女の子の襟元を開こうなんて失礼ですよ。私が見ます」
しのぶが、ゆきに手を伸ばしたその時…
義勇がその手首を掴んで制止した。
「冨岡さん?」
しのぶの声に、いつもの朗らかな響きはない。
義勇は無言のまま、しかし拒絶の色を隠そうともせず、しのぶの手をゆっくりと押し戻した。
「胡蝶、悪いが席を外してくれ。これは…俺と継子の問題だ」
「問題、ですか。怪我人かもしれない相手を放置しろと? それに、今の貴方の様子は少し…いえ、かなり異常ですよ」
しのぶの鋭い指摘に、義勇の肩が僅かに震えた。
彼はゆきから視線を逸らさぬまま、低い声で続けた。
「時透の屋敷で何があったか、本人に直接確かめる。頼む、ニ人にしてくれ」