第61章 任務からの帰還〜時透無一郎 不死川実弥
無一郎は、扉の影で拳を強く握りしめていた。
不死川がゆきのボタンを留めたという事実、それと義勇までもが夜通しゆきの側にいたという事実。
無一郎の中の「静かな怒り」が限界に達する。
「もういいよ、不死川さん…」
冷たい声とともに、無一郎が部屋に入ってきた。
その瞳には、いつものぼんやりとした様子はなく、鋭く尖った拒絶の色が混じっていた。
「あとの準備は僕がするから。部外者は出て行ってくれない?」
「部外者ねェ」
不死川は挑発するように口角を上げ、ゆきの頭にぽんと手を置いた。
「時透、あんまり締め付けすぎるなよ」
不死川が部屋を出ていくと、無一郎は無言でゆきの前に立った。
少し乱れた襟元を、無一郎は執拗なほど丁寧に整え直す。
「ねえ、ゆき。そんなに不死川さんがいいの?」
「ち、違う!無一郎くん。ただ手が動かなくて……」
「僕を呼べばよかったじゃない。どうしてあの人に触らせたの?」
無一郎の顔が、吐息がかかるほどの距離まで近づく。
「あっ本当は冨岡さんが良かったのかな?僕だけを見てればいいのに」
そう呟く無一郎の目は、少しだけ悲しそうに揺れていた。
屋敷に戻り、部屋のふすまが閉められた瞬間、無一郎の纏う空気が一変した。
ゆきを壁際へと追い詰め、逃げ場を塞ぐように両手を突いた。
「ねえ、まだ不死川さんの感触が残ってるの?」
無一郎の指先が、先ほど不死川が触れたボタンのあたりをなぞる。
その手つきは丁寧だが、どこか執拗で、ゆきの肌に痺れるような緊張感を与えた。
「感触なんて残ってないよ!」
ゆきは、怖い…と感じてしまった。
「あんなに乱暴な人の手が良かったんだ。僕じゃ頼りなかった?それとも、あんな風に誰にでも身体を許すのが好きなの?」
「そんなことないよ…」
と否定しようとするゆきの唇を、冷たい指で塞いだ。
「口では何とでも言えるよね。でも、身体は正直だよ。こんなに震えてる」
「無一郎…くん…」
無一郎はゆきの耳元に顔を寄せ、熱い吐息とともに、普段の無一郎からは想像もつかないような過激な言葉を紡ぎだしていた。
それは、ゆきを自分だけのものとして刻み込みたいという、歪んだ愛の証明だった。