第61章 任務からの帰還〜時透無一郎 不死川実弥
部屋ではゆきの泣き声が、次第に小さく規則正しい寝息へと変わっていった。
泣き疲れて、不死川の胸の中で眠りに落ちてしまったのだ。
「おい、寝ちまったのかよ」
不死川は呆れたように息をついたが、膝の上の重みは決して離そうとしなかった。
ふと開いたままの部屋の入り口の扉に、気配を感じる。
「そこに居るんだろ、冨岡」
不死川の低い声が夜の空気に響く。
影から姿を現したのは、青白い顔をした義勇だった。
「すまない…」
「俺に謝ってどうする。この女に言え」
不死川は、眠っているゆきの頭を大きな手で乱暴に、けれど慈しむように撫でた。
「お前が諦めるなら、俺がこいつ貰おうか? もう手離したいから胡蝶と猿芝居したんだろ?」
挑発的な不死川の瞳が、暗闇の中で鋭く光る。
義勇は、眠るゆきの穏やかな顔を見て、さらに胸を締め付けられた。
俺は勝手な男だ…こんなにも不死川に嫉妬している。
「お前には関係のない話だ。俺がゆきを見るから…ありがとう」
義勇は、そう言って不死川の膝の上からゆきを抱き上げようとした。
「おい。渡さねぇよ…目覚めるまで俺が抱いている」
そして、夜が更けていくが…義勇は部屋の端で壁にもたれて立ったまままだそこに居た。
「なぁ冨岡お前まだ行かねェのかよ?」
「行かない」
「俺ゆきと一緒に寝るわ」
「はっ!?何を?」
不死川は、ゆきを抱きしめながらベッドに寝転んでいた。
「おい。不死川起きろ離れろ!」
「はぁ?俺に指図するなあと静かにしろ…ゆきが起きるだろう」
義勇は、ベッドの側から離れなかった。
「…お前マジで見すぎだよ…」
「不死川いい加減ゆきを離せ」
「いや、見ての通りゆきがしっかりと俺を抱いてるから離れられない…それよりこいつ甘くて良い匂いするなァ」
義勇の顔が引きつっている事に不死川は気付いていた。
夜明け前不死川はようやく重い腰を上げた。
「そんな大事なら中途半端に諦めるなよ!時透の事もあるだろうが貫けよ!俺は行くぜ…」
そう吐き捨てて、不死川は名残惜しそうにゆきの髪に一度だけ触れ、部屋を後にした。
俺だって諦めたくないさ…だけど時透も真剣なんだよ…