第46章 幻覚の正体〜冨岡義勇
「君が隠の田中?」
「ええ!?か、霞柱様?」
「いいから答えてよ」
「は、はい。水柱様の屋敷で台所仕事などしております。」
無一郎が、義勇の屋敷にいきなり入ってきていたので中の隠や隊士達がザワザワしていた。
「ここで話せないからちょっとついて来てよ」
隠が、動揺を隠せずにあたふたしていた。
無一郎が隠の腕をつかみ外に引っ張り出そうとした時に、無一郎は腕を掴まれた。
義勇だった。
「うちの屋敷の隠が、何かしたか?」
「冨岡さんも知ったら僕と同じ事したくなりますよ。」
隠から手を離して無一郎は行ってしまった。
ゆきは、無一郎の後を追った。
門を出る所だった…。
「む、無一郎くん!!」
心地の良い大好きな声に、胸がぎゅっとなった。
無一郎は、足を止めた。
「わ、私…あのっ…言い訳に聞こえるかもしれないけど…本当に…無一郎くんだと思ったの…無一郎くんの声だったし顔も仕草も全部…全部…」
声を震わせて一生懸命話しているのがとても伝わってきた。
「そんな…誰でもいいからじゃないんだよ…無一郎くんだと思ったから何でも許したし何でもしたの…」
無一郎は、何て返したらいいのか分からずに立ち尽くした。
「私の事は、もう何とも思っていないのはわかってる」
好きに決まっているのに…
「凛の方がいいのも知ってる…」
君がいいに決まってるでしょ…
「ただ…私を汚いって思わないで…本当に無一郎くんだと思ったの信じてください…」
無一郎くんの反応がない…もう終わった関係だし…どうでもいいのかな?
汚いすらも感じないのかな…
興味もないか…
涙が地面にぽたぽた落ちていた…。地面の土が私の涙をすぐに吸い込んでしまうのを見ながら泣いた…。
「汚くなんかないよ」
大好きな声が、耳元で聞こえた。
また少し背が伸びたのか、変わらなかった背が少し大きく感じた…私を優しく抱き締めてくれた。
長い髪が、私の頬をかすめる。
不安が消えていく…あなたの腕の中にいると…
あなたの鼓動も聞こえる…
あなたの匂いがする…
恐る恐る顔を見た…
泣きそうな切ない顔の無一郎くんがいた。
「僕は君に隠していることがあるんだ」
無一郎くんの鼓動が、すごく早い…呼吸も早い…
私を抱く腕が強くなる。
「君こそ僕を汚いと思うかも」