第34章 それぞれの想い〜冨岡義勇 時透無一郎
蝶屋敷を出発する時まだ凛は居た。今回は隠が馬車で送ってくれる事になった。
馬車には、真ん中に凛が座った。
「無一郎くん屋敷でご飯やお掃除とか色々するね。何でも雑用こなしちゃう」
無邪気に、話す凛に私はイライラしていた。でも一番イライラしているのは、無一郎くんにだ…
何で帰らさないの?何で屋敷に連れて行くの?
「はぁ」
溜め息ばかり出る…。
「ゆきお姉様溜め息ばかりですね」
凛の声が煩い…話しかけないでほしい…
思わず言葉に出てしまった。
「煩い…」
すると凛が泣き出した…
「無一郎くん…ゆきお姉様怒ってる…煩いって」
もうイライラが限界を超えた
「すいません!隠の方、止めてください」
キー!!
馬車が止まった。
「私歩いて帰ります」
無一郎は慌てて馬車をおりた。
「何やってるのゆき?まだ完全には傷が治ってないから馬車に戻って、早く」
ゆきは、無視して歩き出した。
「聞いてるの?早く戻って」
それでも、無視した。
「怒ってるの?昨日の夜のことは謝るよごめん」
ごめんとかじゃなくて行動で示してほしい…なんでまだ凛が一緒に居るの?この感じじゃ一緒に屋敷で暮らす事になるし
「凛の事はもうしばらく時間が欲しいから、我慢して」
「一人で屋敷に帰るから先に行ってください」
無一郎は、ゆきをじっと見ていたが馬車に乗り行ってしまった…。
一人ポツリポツリと歩いた。
私の想いは…無一郎くんは今誰を想っているの?
少し歩いた所に義勇の屋敷があった。歩きながら中を覗いた。
義勇の姿は無かった…
こんなのすごく都合がいいことだとわかっていた。ずるい事だともわかっている。
だけど、だけど…
会いたくなった…無性に声が聞きたくなった…
義勇さんの気持ちを利用しているのもわかっている。だけど…
道場の中を覗いた
「義勇さん?」
誰も居なかった…屋敷は鍵が開いてたので中に入った。
「義勇さん!!」
返事がない
「義勇さーん」
自分の声が響くだけだった
庭に出て歩きながら呼んだ
「義勇さん!」「義勇さん」「義勇さん…」
涙がいっぱい溢れ出した…なんで居ないの?
「義勇!」
その瞬間後ろから抱きしめられた。耳元から優しい声がする。