第105章 無一郎と美月の仲〜時透無一郎
いつの間にか浅い眠りに落ちていたようで、ゆきが目を覚ました時には、すっかり朝の光が部屋を照らしていた。
屋敷の静けさからして、きっと皆の朝食も終わっている時間だろう。
重い体を起こそうとした瞬間、無一郎の部屋へと繋がる障子がすっと開いた。
「起きたの? いつまで寝てるの」
そこに立っていたのは無一郎だった。
その声にはどこか感情を削ぎ落としたような、刺すような冷たさが混じっている。
昨夜のあの切ない口づけが嘘だったかのような態度に、胸が強く痛んだ…。
「…ごめんなさい。すぐ起きるから」
ゆきは溢れそうになる動揺を隠すように伏し目になり、慌ただしく布団をたたみ始めた。
背中に注がれる無一郎の視線が痛いほど熱く、部屋に満ちる沈黙がたまらなく居心地悪い。
私の事冷めた目で見ているんだろうな…
「着替えるから出て行ってほしい」そう伝えようと意を決して無一郎の顔を見上げたゆきは、思わず息をのんだ。
そこにいたのは、今にも泣き出しそうなほど悲しげで、深い切なさを湛えた瞳で自分を見つめる無一郎だった。
「無一郎くん…?」
言葉を失うゆきに対し、無一郎はハッとしたように表情を消すと、瞬時にいつもの無機質な面持ちへと戻った。
そして何も言わないまま、ピシャリと音を立てて障子を閉め、自身の部屋へ入ってしまった。
残された部屋で、ゆきはぽつんと佇む。
冷たく突き放すような言葉。
昨夜、暗闇の中で残された熱く愛おしい口づけ。
そして今、一瞬だけ見せた悲しげな瞳。
どれが無一郎の本心なのか、何もわからない。
信じてくれない寂しさと、捨てきれない温もりのはざまで、ゆきはますます混乱していく…。
その時…美月の元気な声が聞こえてきた。
「無一郎様!今日は朝食取らないのですか?食堂にいらっしゃらないので、心配してお部屋にお伺いしまた。」
無一郎とゆきの部屋は障子で仕切られているだけなので会話は丸聞こえだ
「食欲なくて…」
「食べないと身体に毒です。」
「おにぎりお持ちしました。」
「優しいね美月は、癒されるな」
私は…何を聞かされているの?
「無一郎様美味しいですか?」
「うん」
「愛情込めて作ったんですよ。」
ゆきは、部屋を飛び出していた。