第105章 無一郎と美月の仲〜時透無一郎
屋敷の奥の部屋では、ゆきは義勇の治療を拒んでいた。
義勇は、頑なに拒むゆきを前に、すっかり苦戦を強いられていたのだ。
「足を見せろ」
「だ、大丈夫です…! 包帯さえ巻いておけば、すぐ治りますから」
「何を言っている。あれほど出血が酷いんだぞ? 見せるんだ」
膝を抱えて必死に隠そうとする彼女の頑なな態度に、ついに痺れを切らした義勇。
義勇は遠慮なくゆきの体をそっと押さえつけると、剥き出しになった足の裏へ視線を落とした。
血に濡れた痛々しい皮膚を改めた義勇の表情が、一瞬で険しくなる。
「…硝子片が刺さっているじゃないか!」
その言葉に、胸がキュッと縮んだ。
足の裏を襲っていたあの鋭い激痛の正体を知り、納得すると同時に、恐怖が遅れて押し寄せてくる。
「今から引っこ抜く」
あまりにも淡々とした義勇の言葉に、ゆきの顔からは一気に血の気が引き、青ざめていった。
その様子を察した義勇は、いつもよりずっと柔らかく、静かな声をかける。
「…大丈夫だ。なるべく痛まないようする」
しかし、その時廊下から声が聞こえた。
「幸です。自分が手当いたします。入ってもよろしいですか?」
「あ、ああ」
義勇の短い返事とともに襖が開くと、幸は静かに室内へ入り、丁寧に頭を下げてこう告げた。
「父は医者でして、自分も幼い頃から手伝いをしてまいりました。医術の知識はございますので、手当ならばお任せください」
それを聞いた義勇は安心したように頷き、治療を幸に任せることにした。
幸は手際よく薬や手ぬぐいを取り出すと、真剣な眼差しで義勇に向き直る。
「硝子片を抜く際に強く痛みますので、動かないように身体を押さえておいていただけますか?」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、義勇は一切の躊躇もなく、激痛と恐怖で震えるゆきの身体を後ろからぎゅっと抱きしめるようにして押さえつけた。
包み込むようなあまりの距離の近さに、頼んだはずの幸の方が「あ、あの…!」と思わず驚き、真っ赤になって顔を背けてしまった。
「お、奥の方まで入り込んでいるので相当痛いと思います。口に手ぬぐいで噛んでもらうほうが宜しいかと思います。」
義勇は、それを聞くと自分の腕を口に咥えさせた。
「力いっぱい噛んでもいい…」