第105章 無一郎と美月の仲〜時透無一郎
さっき見た二人の姿が頭から離れず、ゆきは薄く目を開けたまま、冷え切った布団の感覚に耐えていた。
胸を押し潰すような痛みで、息をするのさえ苦しい。
美月の言葉を信じ、ゆきを疑い、そして美月の元へと身を寄せた無一郎。
その光景が焼きついて離れず、ゆきは溢れそうになる涙を必死にこらえ、布団をかぶった。
どれだけ経っただろうか、廊下を渡ってくる静かな足音が聞こえた。
足音はゆきの部屋の前で、一度止まり遠のき、また部屋の前で止まった、そして音もなく障子がゆっくり開いた。
…無一郎くん……?
ゆきは咄嗟に瞼を閉じ、規則正しい寝息を装った。
今は無一郎くんと話したくない…
気配が静かに近づいてくる。
ゆきの枕元で無一郎は、ゆっくり腰を下ろす、冷えた空気が揺れた。
ふわりと落ちてきたのは、無一郎の香り…そして、ほんのわずかに混ざる美月の部屋の香の匂い。
次の瞬間、唇に柔らかく、そして泣き出しそうなほど切ない感触が落とされた…。
「…っ」
愛おしむような、けれどどこか許しを請うような、繊細で熱い口づけだった。
無一郎の吐息が耳元をかすめ、頬に触れた無一郎の指先が小さく震えているのが伝わってきた…。
やがて、名残惜しそうに唇が離れた。
無一郎は何も言わないまま静かに立ち上がると、忍び足で部屋を出て行き、障子がそっと閉ざされた。
一人取り残された暗闇の中で、ゆきはそっと自分の唇に指を触れた。
残されたのは、冷たいほどの切なさと、あまりにも深い困惑…。
美月の所で、甘えてきたくせに何故私にこんな事をするの?
自分を拒絶し、信じてくれなかった無一郎くん
それなのに、あの口づけには揺るぎない愛着と、愛おしさが満ちていた優しい口づけだった。
すれ違う心と、裏腹な無一郎の温もり…。
無一郎の本当の気持ちが分からず、ゆきは眠れぬ夜を過ごした。