第104章 護衛〜冨岡義勇【R強】
「ゆき…が、作ったのか? あの、夕飯の鮭大根」
ぽつりと言葉を紡いだ義勇の耳は、真っ赤に染まっていた。
じっと自分を見つめてくるその不器用な視線に、ゆきは小さく息を呑む。
「は、はい…」
消え入りそうな声でようやくそれだけを返すと、義勇は少しだけ表情を和らげ、どこか愛おしそうに言葉を繋いだ。
「嬉しかった。お前が俺の継子を辞めて、屋敷を出て行ってから、一度も食べていなかったからな。隠たちが気を利かせて何度か作ってくれたが…お前の味を忘れたくなくて食べなかった、お前が作ったものが一番美味い」
その真っ直ぐな言葉は、ゆきの胸の奥を激しく揺さぶった。
嬉しさと、それ以上にこみ上げる切なさに胸が苦しくなる。
ゆきは、抱えていた西洋の恋愛小説を、まるで自分を護る盾のようにますます強く胸元へ抱きしめた。
こうやって義勇さんと向き合えば向き合うほどに…どんどん惹かれそうになっていく…
ゆきは溢れそうになる感情を必死に抑え込み、努めて冷然として冷たい笑みを浮かべた。
「お口に合って良かったです。今夜も護衛、よろしくお願いいたします。柱である義勇さんに、このような身の回りのことまで強いてしまい、本当に申し訳ありません。そのお礼で作りました。」
線を引くような余所余所しい言葉とともに、ゆきは深々と頭を下げた。
だが、義勇は拒絶されることなど恐れていないかのように、静かに首を振る。
「いいんだ…。俺は、お前の護衛を任されて、嬉しい」
その言葉にゆきが動揺した瞬間、義勇がためらうことなく部屋の中へと一歩、足を踏み入れた。
「義勇さん?」
驚いたゆきは、思わず後ろへ後退る。
「側に、行ってもいいか?」
子供のような義勇の問いかけに、ゆきは首を横に振った。
「だ、駄目です…」
「お願いだ…少しだけ、お前の近くにいさせてくれ。」
拒む声にも義勇は歩みを止めず、部屋へと完全に滑り込むと、背後で静かに襖を閉めた。
カタッ、と軽い音が響き、逃げ場のない空間が完成した。
「ゆき少しだけ…抱きしめたい…。」
「待ってください義勇さん!」
「秘密にしよう…前みたいに…だから…」
ゆきは、ゆっくりと部屋の壁際に追いやられた。