第104章 護衛〜冨岡義勇【R強】
ゆきは、部屋で読書をして気持ちを落ち着かせようとしていた。
この屋敷の主である甘露寺は、異国の文化にとても興味があるらしく、部屋の本棚には西洋の恋愛小説が所狭しと並べられている。
普段なら少し気恥ずかしくて手に取らないような煌びやかな恋物語だったが、今のゆきには、現実から目をそらすための格好の隠れ家だった。
一文字一文字を追うように、必死に小説の世界へと没頭していく。
本の中に引き込まれている間だけは、胸を締め付ける無一郎のことも、頭から離れないすべての苦しさも、忘れることができた。
そして、遠ざけなければいけない、義勇のことも…。
そうやって自分を偽るように頁をめくっていた、その時だった。
トントン、と廊下の板を静かに踏みしめる、控えめな足音が部屋の前でぴたりと止まった。
きっと、隠の人が夕飯を食べに来るように呼びに来てくれたのだろう、義勇と一緒に食べるのは気まずいと伝えたので義勇は、食べ終え部屋に戻ったのだと思った。
ゆきは、物語の途中にそっとしおりを挟み、小さく息を吐いて立ち上がった。
そして、張り詰めた心を少しだけ緩めながら、すっと襖を開いた…。
「は…」
返事をしようとしたゆきの言葉が、途中で凍りついた。
そこに立っていたのは、見慣れた隠の姿ではなかった。
「…ゆき」
少し気まずそうに、そしてどこか照れくさそうな表情を浮かべた義勇が、真っ直ぐに自分を見つめて立っていた。
あまりに突然の、そして一番予想していなかった人の訪問に、ゆきの心臓が跳ね上がる。
驚きのあまり声も出ず、ただ目を見開いたまま立ち尽くすことしかできない。
気まずさと、胸の高鳴りが押し寄せそうになる…涙を堪えるように、ゆきは抱えていた本をぎゅっと胸元で抱きしめた。
静まり返った廊下で、二人の視線が絡み合う。
息が詰まりそうな沈黙のなか、先にその静寂を破り、ぽつりと口を開いたのは義勇だった。