第104章 護衛〜冨岡義勇【R強】
食事を終えた義勇が席を立とうとした、その瞬間
私の胸の内に、複雑な葛藤が渦巻いた。
一度は彼への恋心をきっぱりと断ち切ったはずだった。
それに、今の私には時透無一郎という婚約者がいる。
刀鍛冶の里での出来事以来、彼とは気まずい空気のまま距離を置いてしまっているけれど、私の立場は変わらない…。
それなのに、昨日見せた義勇の切ない瞳や、先ほどの茸をめぐる不器用な優しさが、心の奥底に沈めたはずの記憶を容赦なく揺さぶってくる。
いけないと思えば思うほど、気まずい沈黙に耐えかねて、ゆきは逃げるように言葉を紡いでいた。
「あの…」
呼びかけると、席を立とうとしていた義勇は動きを止め、静かにこちらを振り返った。
「甘露寺さんの任務って、何日間くらいなんですか?」
「あぁ…」
義勇さんは少し間を置いてから、ぽつりと答えた。
「任務と言っても、伊黒との保養も兼ねているからな。二、三日くらいだと思うが」
「そう、なんですか…」
二、三日。それは、甘露寺さんが不在のこの屋敷で、義勇さんと過ごさねばならない時間を示していた。
無一郎くんとの関係に悩み、心が揺れている今、かつて慕った義勇さんとここで過ごすのは、どこか後ろめたいような息苦しさを伴う。
それに甘露寺さんが護衛を義勇さんがすることも無一郎くんに、内緒にしていると教えてくれた。
ますます後ろめたさが募る
「あの…義勇さんは、この屋敷の護衛に付きっきりで大丈夫なんですか? 他の任務とか…」
「鬼もまったく出なくなったしな。支障はない」
淡々と答える義勇の声に、かつての懐かしさが重なる。
けれどゆきはすぐに、無一郎の存在を思い出し、心の中で自制するように強く拳を握りしめた。
これ以上、義勇さんの優しさに甘えて、心をかき乱されるわけにはいかない。
「そうですか…」
私は小さく相槌を打ち、それ以上は何も言わずに視線を器へと戻した。
義勇さんはそんな私の硬い様子を静かに見つめながらも、急かすことなく、ただ黙ってそばに居る。
差し込む秋の光の中で、私たちの間には、かつてとは違う、どこか張り詰めた大人の距離感が出来てしまっていた…。