第104章 護衛〜冨岡義勇【R強】
秋の気配が混じる夜風は、火照った体にひんやりと冷たく染み渡る。
隣に並んで歩く義勇さん…継子だった頃を思い出した。
私はただ、夜の闇に紛れるようにうつむいて歩いた。
やがてたどり着いた庭の井戸。義勇さんは慣れた手つきで静かに水を汲み、木製の器を満たすと、それをそっと私に差し出してくれた。
「…ありがとう、ございます」
受け取った器から伝わる水の冷たさが、現実に引き戻す。
喉を潤そうと口をつけると、冷たい水が胸の熱さを少しだけ冷ましてくれるようだった。
そんな私を静かに見つめていた義勇さんが、ぽつりと言葉をこぼした。
「ゆき」
名前を呼ばれ、思わず肩が跳ねる。
「あの…この前の、不死川の屋敷でお前に酔って…その、水を掛けた事…すまなかった」
あまりにも不器用で、まっすぐな謝罪。その瞬間に、あの夜の光景が頭の中に鮮明に蘇る。
お酒に酔った義勇さんの普段見せない姿、そして思いがけず降りかかった冷たい水の感触。
「…気に、していません。」
私はあえて平然を装い、小さく首を振った。
それきり、二人の間に重い沈黙が流れる。
義勇さんは何かを埋めるように、ぽつり、ぽつりと別の話題を口にするものの、私のぎこちない返事のせいですぐに会話の糸は切れてしまった。
冷たい夜風が通り抜けるたび、気まずさと切なさが二人の間を通り過ぎていく。
「義勇さん…寒くなってきましたし、私、そろそろ部屋に戻りますね」
逃げるようにそう告げて、私は腰を浮かせた。
けれど、立ち上がりざまに、ふと隣に腰掛けている義勇さんを見下ろした時、胸がドキンと音を立てた。
見上げた彼の瞳には、これまでに見たこともないような、胸を締め付けられるほど切ない表情が浮かんでいたからだった。
だけど…違う…この表情…前にも見たような…
私は強い既視感を覚えた…
それは、私が彼の継子を辞めたあの日。静まり返った道場で、私を見つめる…あの時の義勇さんの表情と一緒だった…。
「お、おやすみなさい!」
ゆきは、そう言い残し慌てて部屋へ戻って行った。