第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
雫の家の方に向かうと、一人の女が家の前で俯いていた。
忘れるはずがない。
あれは…
「雫っ…」
俺は心底ホッとし、雫の元に駆け寄った。
『義勇……様?……義勇様っ…』
俺は雫を抱きしめた。
と…同時に感じた違和感。
2ヶ月前よりも明らかに小さく、細くなっている。
『義勇…様…』
涙を流す雫の目の下には酷いクマができており、本当に雫なのか疑う程、頬はこけていた。
「何が…あった……?」
力を込めれば折れてしまいそうな体を抱きしめ、尋ねた。
『義勇…様…本当に…義勇様ですよね…?ずっと……会……』
俺の羽織を掴んでいた力が弱まり、そのまま…
雫は意識を失った。
「っ…雫っ…」
とりあえず寝かせなければ…
俺は雫を抱き上げ、家の戸を開けた。
「…っ……」
これは…
鼻を突くようなすえた臭い。
大量の塵紙。
乱れた布団。
いくら俺でも、この状況を理解できた。
「おぃ…嬢ちゃんよぉ…」
「…………誰だ。」
外から呼び止められ、そちらを向くと、大柄な男が立っていた。
「てめぇ…その女をどうするつもりだ…?
そいつは俺のなんだよ。」
下卑た笑い方をし、雫に触れようとする男から体を背け、雫を隠した。
「おい…なんのつもりだ…」
「この娘はお前の恋人か?」
「くくっ…恋人ねぇ…
そいつにちょっとでも可愛げがありゃ、そう呼んでやってもよかったのによぉ…」
男はペラペラと喋りだした。
雫が借りている長屋の持ち主の息子であること。
長屋の家賃を払う代わりにと、雫を毎日のように抱いていたこと。
「ちょっと前までアンアン鳴いてたくせによぉ…
急に黙りこくって動かなくなりやがって役立たずが。
だから躾のために、俺の仲間とちーっと可愛がってやったのよ。くくっ…なぁーに、良かったはずだぜ…そいつも」
ミシ…
男の顔の形が変わり、鼻が顔にめり込んだ。
男は白目を剥いて、その場に倒れた。
「………」
一般人を本気で殴ってしまった。
殴られて然りの人間だが、少々やりすぎたかもしれない…
いや…そんなことはない。