第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
「義勇…3つ山を越えた先にあるお団子屋さんの蜜団子の話は知っているかな?」
お館様に呼ばれ、直ぐに屋敷にかけつけると、ニコニコとそのような話をされ、言葉が出なくなる。
「…蜜団子ですか?」
「うん…そこの蜜団子が随分と美味しいと風の噂で聞いてね…子供達や妻に食べさせたいな、と思ったんだ。義勇…買ってきてはくれないかい?」
ニッコリと微笑まれるお館様。
お館様の事だ。きっと全てお見通しなのだろう。
「なぜ…俺なのですか…?」
「ん?なぜって?」
相変わらずニコニコとされ、優しい口調だ。
「試すような事言ってごめんね。
義勇は少し前、随分とそっちの方に行っていたようだから、詳しいのかな、と思って。」
「…………」
「頼んでいいかな?」
「…御意。」
お館様は、ゆっくりと口を開かれた。
「義勇は…頭で考えすぎる所が玉に瑕だね。
もっと…心で感じたままに行動していいと思うよ。」
「……御意。」
お館様がどこまでご存知かわからないが、お館様の命とあらば勿論向かわなければならない。
最近は、雫の事を考える時間も、随分と減っていたのに…
重い腰を上げ、3つの山を越えた。
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季節は初夏になっており、山は緑が生い茂っていた。
俺は久しぶりに、団子屋を尋ねた。
雫の姿を探したが、いないようだった。
客は少なくなっており、嫌な汗が頬を伝った。
「もし…雫という娘はいないか?」
近くを通り過ぎた、初めて見る店員に声をかける。
「雫?あぁ、その方は私が入る前に辞めましたが…」
「辞めた…だと?今どこにいる?」
俺が焦っているのがわかったのか、店員はジロジロと俺を見た。
「ふっ…家にいるんじゃないですか?見に行かれない方がいいと思いますよ。あのようなあばずれ…」
「…あばずれ?」
仕事に戻ります、と頭を下げ奥に入っていく店員。
どういうことだ…
辞めた?雫が?
とりあえず家に向かおうと店を出た。
俺の来ない間に何があった…?