第4章 薄紅色の恋(冨岡義勇)
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「成る程…」
『…………』
知らなかったことだらけで何と言ったら良いのかわからなかった。
育ての両親は私の両親の知り合いだと思っていたのに…
「雫を見つけた時、記憶がないとわかっても、コイツを探している者がいるとは思わなかったか…?心配している者がいるかもしれないと……なぜ思わなかった…?」
真っ直ぐな瞳で凄む水柱様。
ポタリ…ポタリと父の目から涙が溢れた。
『お父さん…』
「思いました。思いましたが…
私達は子供に恵まれず…これは神様からの贈り物なのではと思ってしまったのです。」
「贈り物…?コイツは物じゃない。人間だ。
…その後狭霧山から遠く離れた道博山に移り住んだのも俺には解せない。コイツを探しに来る者が介入できない場所にとでも思ったか?たちが悪いことこの上ないな…」
『っ…水柱様…もうお止め下さい…』
これ以上は聞いていられなかった。
父も母も泣き崩れ、私は2人の小さな背中を見て耐えられなくなり、水柱様の方を向くと口を開いた。
『水柱様…父と母が私をどのような経緯で育ててくれたか…私にとってはどうでもいい事です。』
「………」
『2人は私に、たくさんの愛情を注いでくれた…
本当に感謝しています。記憶がない以上、私がどこの誰かは関係ありません。私の両親は2人以外ありえません。
どうかお願いです、これ以上2人を傷つけるのだけは…
お止め下さい…っ…』
私も深々と頭を下げた。
「………」
水柱様はスッと立ち上がると、
「お前が雫とわかっただけでいい…
遠くまで悪かったな。隣の部屋に土産があるから、持っていってくれ。」
そう言って出ていかれた。
「紗耶……」
涙を溜めた母が私を見て、震える声で言った。
「本当にごめんね…」
『ううん…私がどこの誰でも関係ない。
私のお父さんとお母さんは、2人だから…』
入って良いと促された隣室には紙袋が2つ置いてあり、中身は上等な金平糖、煎餅、飴などが入っていた。
水柱様が用意されたのだろうか…
さっきは両親にああ言っていたけれど、水柱様は決して悪い方ではない。
雫さん…いや、私は…本当に水柱様に大切に思われていたんだ…