第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
俺が何かを贈る度、鈴を転がすように笑う雫を見ると、自然と心が満たされた。
いつの間にか俺は、そんな雫の笑顔見たさに非番の日も雫の町に顔を出すようになっていた。
俺が贈るものはいつも、甘露寺や胡蝶の趣味になってしまうな…
ある日雫を家まで送ると、ずっと聞きたかった事を聞いた。
「雫…好きな色は何だ。」
『ぇ…色……ですか?』
「あぁ…」
『…っ…そうですね……』
雫は少し考えてから、恥ずかしそうに言った。
『青色…よりも、もっと濃い…群青色が好きです。いつか義勇様がお貸し下さった手巾のような…あと…義勇様の…瞳の色のような…』
頬を赤らめてそう言った雫を
そっと抱き寄せた。
『…っ……』
「すまない。少しだけ……こうさせてくれ。」
ここ最近、雫に触れたいという思いが膨らみ、我慢の限界だった。
『義勇…様…』
「……嫌か?」
雫はフルフルと首を振り、
『嬉しい…です…』
タコのように頬を赤らめてそう言った。
「雫…」
話を続けたくてそっと離れると
背中近くの雫の首筋に咲く赤い華を見つけ
心臓を掴まれたように苦しくなった。
『義勇様…?』
きょとんとする雫に気づかれぬよう、平静を装った。
自分では気づいてないようだった。
着物の襟からかろうじてのぞく赤い華を見ないよう、ズキズキと痛む胸に気づかないフリをしながら、俺は素早くその場を立ち去った。
ーーーーーーーーーーー
何を思い上がっていたのか。
雫も自分と同じ気持ちなのではと勝手に思い込んで、舞い上がっていた。
「ふっ…何とも滑稽だな。」
思いの外自分が落ち込んでいる事に気付き、ゆっくりと歩いた。日輪刀が重く感じたのも初めてだった。
雫の事は忘れよう…
任務にも支障が出てはいけない。
そんな風にでも思わなければ到底立ち直れなかった。
雫に会わぬまま、二ヶ月が過ぎていた。