第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
『いえ…父は軍人として階位の高い、剣の達人だったようですが、あっけなく鬼に殺されてしまいました…
一緒にいた方が後で教えて下さったのですが、斬りつけても斬りつけても、鬼に致命傷を与えられなかったそうです…
義勇様はそのお若さで、いとも簡単に鬼を倒された…
本当に…すごい方なのですね。』
涙を浮かべながら微笑む娘。
それは父親の刀が日輪刀ではなかったから…
そう言いかけて、なぜか言葉が出てこなかった。
『ここが家です…すみません、送っていただいて。』
娘の家は古い長屋だった。
軍人の娘であろうと、所詮妾の子供。
良い暮らしは保証されなかったようだ。
『母が私を育ててくれた、大切な家なので、なかなか出ていくことはできなくて…』
娘は小さくそう言った。
「大変だろうが…
体に気をつけて、鬼に用心して過ごすといい。
団子…美味かった…」
ニコリと笑って俺に頭を下げると、娘は言った。
『義勇様、お仕事の際はまた…お店に寄って下さりますか…?』
「あぁ……きっと寄る。」
娘にそう約束すると、その場を後にした。
『きっとですよっ…義勇様。』
ブンブンと手を振る娘を見て、思わず頬が綻んだ。
さて…
山に入って偵察をはじめ、鬼を斬ったら…
藤の花の家に寄って、香でももらって届けるか。
"雫と言いますっ…"
赤い顔をした雫の顔が頭から離れない。
「…っ…何を考えている…」
自分にこんな感情があるとは驚いた。
結局鬼は出現せず、雫の元に藤の花の香を届けることはなかった。
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それから俺は、任務があると雫の住む町に行き、団子屋に寄った。
『義勇様…これは何という食べ物ですか?』
「…ちょこれいと、だそうだ。仕事仲間にもらった。」
『っ…んー!…甘くて頬が落ちそうですっ…』
「ふっ…大袈裟だな…」
『義勇様、これは?…』
「リボン…というそうだ。こうつけるらしい…」
『わぁっ…こんな素敵な物、いただいて良いのですか?』
「気にしなくていい…よく似合っている。」
甘露寺や胡蝶に女子の好みを聞くと、甘露寺は俺の手を取って大喜びし、胡蝶はフッと笑い、翌日屋敷に色々と届けてくれた。
持つべきものは同僚だと再確認した。