第3章 空色の恋(時透無一郎)
「…?任務以外の非番の日は大体稽古だ。
稽古すればする程上達するからな。本人の意思だ。
だが時透からの伝言はきちんと伝えておこう。」
冨岡さんがゆっくりと歩く自分を追い抜かした。
冨岡さんが屋敷に帰れば雫がいる。
全身が泡立つように腹が立った。
「冨岡さん…」
「…?何だ。」
「冨岡さんはなぜ雫を継ぐ子にしたんですか?」
「…任務で一緒になり、強くなるのではと判断した。
同じ呼吸というのも手伝ったが。」
「それだけですか?」
「鬼殺隊の一員としてこの先役立つと思った。それだけだ。」
「そうですか…」
僕は冨岡さんに近づいた。
「14歳ですが…雫はちゃんと女としても役立ちますよ。もう知っているかな…?」
「………何が言いたい?」
「冨岡さんを、ちゃんと満足させられるカラダをしている、ということです。」
「…お前達はそういう関係なのか?」
「さぁ…それは雫に聞いてください。
さっきの遊びに来てというのはそういう意味ですから。」
「…………」
「勿論、雫が決める事なので…」
冨岡さんを抜かし返し、帰路についた。
体の震えは消えていた。
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side 義勇
屋敷に戻ると夜になっていた。
『師範っ…お帰りなさいませ。1日ご苦労様でした。
今日は鮭大根です。味見しましたが前より上手くできたと思うので、早く食べてほしいですっ…湯浴みの準備もできています。』
グイグイと腕を引っ張る雫。
自然と、体を押しつけられる形になる。
本人の行動に、深い意味はない。
それはこの数週間でよくわかった。
女にも男にも、雫はこんな感じだ。
「…待っていてくれたのか。
疲れたから湯浴みを終えてから夕餉にしよう。
鮭大根…楽しみだ。」
早く早く、と幼い子供のようにニコニコとする雫。
「……雫。」
『…はい?』
「時透が…また屋敷に遊びに来てほしいと言っていた。」
驚いた顔で掴んでいた腕を離すと、表情が強張る。
『そう…ですか…』
朗らかな雰囲気が壊れたのがわかった。
『ですが…非番の日は師範との稽古が今は凄く楽しみなので…しばらくは…いいです…』