第2章 若草色の恋(不死川実弥)
ーーーーーーーーーーー
うちの学校は中間が終わればすぐに学祭の準備が始まる。
3年A組は食べ物の出店のみで、大してする事がない為、体育館の飾り付けを割り振られた。
「雫、体育館行こっ。」
何人かの生徒が相澤の腕を引っ張り、体育館まで向かおうとしている。
チッ…今は無理だな。
俺も花になった花紙に画鋲を刺し、壁につけ始めた。
「不死川…」
「おぉ、伊黒かぁ…ったくタリぃよなぁ。
行事続きってのも…」
「全くだ。だが…こういう事は生徒が勝手にやるからまぁいい。授業の準備をしなくて済むからな…」
「ま、確かにそれはな…」
伊黒は同い年の化学担当だ。同じ理系だからか気が合ってよく話す。
「お前さ…」
俺は伊黒になら少し話してもいいかと、手を止めた。
「急に頭痛くなって、頭ん中に変な映像が流れてきた事とか…あるか?」
「…は?」
「ははっ…ねぇよな?」
「いや…俺はないが……」
「きゃーーーっ……」
突然聞こえてきた女子生徒の悲鳴。
「雫っ、雫が…誰か助けてっ」
声のする方を見ると、相澤がギャラリーの外側に片手だけの状態でぶら下がっている。
「ったく…何してやがんだ、アイツは…」
そうこうしているうちに、ズルズルと下がる相澤の体。
ヤバい…床まであの距離だと骨折…いや、最悪打ち所悪けりゃ死ぬ…完全に俺の監督不行き届きだ…
何してんだ俺は…
「相澤っ……」
相澤の方を見ながら走るが、ぜってぇに間に合わない距離…
『師…範……』
「…っ……」
相澤はニコリと笑うと
そのまま落下した。
雫………
その瞬間俺の体はありえねぇ位軽くなり、一瞬にして相澤の場所に辿り着くと、彼女の体をしっかりと抱えていた。
ダンっ……バゴっ……
勢いをつけすぎて窓を守る鉄筋に頭を打ちつけ、俺はそのまま意識を失った。
ーーーーーーーーーー
目が覚めると、見慣れない天井が見えた。
風にそよぐカーテンから、眩しいくらいの光が差し込んでいる。
「っ…不死川さん…
405号室、不死川さん意識回復されましたっ。」
部屋にいた女がベッドについたボタンを押しながら叫んだ。
「実弥…良かった。目が覚めたんだね。」