第5章 呼吸
…でも、自分が変な顔をしているって
冨岡さんに言われると、なんか凹む。
私もしのぶちゃんやカナヲちゃんみたいに
可愛い顔で産まれていたら
令和の時代で、彼氏の1人2人も出来たかもしれないのに…。
手に持っている黒縁の丸眼鏡を持ちながら
自分の顔の悪さに落ち込んでいると
冨岡さんは私の隣で、小さくため息を吐いた。
「……美人だという自覚がないのか。」
『え…?すみません、
声が小さくて聞こえなかったんですけど…』
「…。いや、ただの独り言だ、気にするな。」
『…?あ、まさかまた眼鏡の悪口言いました?』
「言っていない。眼鏡が似合っていると言った。
だから……俺以外の前では、あまり眼鏡を外すな。」
『え?どうしてですか?』
「…いいから言う通りにしろ。上官命令だ。」
『意味がよく分かりませんが…、
命令なら従います。』
きっと冨岡さんは遠回しに
私の変な素顔は、他の人達に見せない方がいいって言ってくれてるんだよね…?
…その気遣いは有り難いけど女としては若干凹む。
まぁ、柱の命令なら従わないといけないし
これからもこの眼鏡をかけ続けよう、と私は決心し
雪によって濡れたレンズを服の袖で拭き取ってから、私はまた眼鏡をかけ直した。
そして、庭に視線を向けた私は
眼鏡のレンズ越しに、未だに降り続ける雪をジッと眺めた。
『へ…っくしゅん…っ』
「…寒いか?」
『あ…はい…少しだけ…。
服が雪で濡れちゃったので…』
庭で岩を斬った時は
ずっと呼吸を繰り返して集中してたし
寒いとは思わなかったけど…
服についた雪が溶けて、冷たさが皮膚まで染みてきてるから、体が冷えるのは仕方ない。
でも 、
もう少しだけこのまま、降り続ける雪を眺めていたい…
綺麗な雪景色を、もっと目に焼き付けておきたい…
そう思いながら庭を眺めていると
私の体に、フワッと何かが掛けられて…
それは、冨岡さんが身に纏っていた羽織だった。