第5章 呼吸
でも、今回斬ったのは
冨岡さんの庭にあったものだから許してもらえたけど
きっと、どの家でも許されるとは限らないだろうから
今度からは気をつけないと……
そんな事を心の中で考えていると
冨岡さんが私の方を向いて、話し出した。
「先程の型……、見事だった。」
『っ、え…?』
「雪の呼吸は初めて聞くものだが
お前の剣技には相応しいと思う。
岩を斬り裂くだけでなく、
自分で流派を生み出すとは大した物だ…」
『っ、冨岡さん…』
「…、よく頑張ったな。」
『〜〜〜ッ、ありがとうございますッ…!!』
嬉しいな…
こんな風に冨岡さんに褒めてもらえて…すごく嬉しい…。
嬉しさのあまり感極まった私は
目から涙がポロポロと溢れ落ちてきた。
今まで色んな流派の型を勉強して試してきたけど、どれも体には合わなくて、ずっと悩んでたから…。
そんな苦労も、冨岡さんに褒めてもらえたことで
漸く報われた気がした。
「…おい、泣くな。
俺が泣かせているみたいだろう。」
『すっ…すみま、せん…ッ、でも、嬉しくて…っ』
私が泣いた事で、
冨岡さんは困っている様子だったから
私は涙を止めようと、かけていた眼鏡を外して
ゴシゴシと強く目を擦った。
「…。以前から不思議に思っていたんだが
お前はなぜそのような奇妙な眼鏡をかけている?」
『いや、奇妙って…。
この眼鏡掛けてると、賢く見えませんか?』
「…お前は賢い女だと思うが。」
『そんな事ないですよ…。
それに、昔から自分の素顔を
人に見られるのが苦手なんです。
通ってた学校ではよく人に見られてたし…
私を見てニヤニヤした人もいましたから
きっと私の顔が変で、馬鹿にされてたんだと思います…』
「…。前言撤回だ、お前は賢くない。」
『撤回しなくても分かってます!!』
…別にいいもん、眼鏡かけるの好きだし。
賢く見えなくても
素顔が隠せればそれでいいもん…。