第5章 呼吸
…結局、あの頃の私は子供で
お父さんに教えてもらった事は、上手く出来なかった。
子供だから、出来ない事が分かると諦めるのも早くて、そんな私を父は笑っていた。
でも今は…何となくできる気がする。
『…冨岡さん、ちょっと見て欲しいことがあるんですけど
いいですか?』
「?あぁ。」
『ありがとうございます!』
私は
さっき中庭で雪を見た時のように
再び靴下を脱いで、
今度はしのぶちゃんに借りた刀を持って、裸足で地面に降りた。
まだ少し冷たさを感じるけど
私は目を閉じて、ゆっくり深く息を吸った。
『すぅーーー…』
息を吸うと肺が大きくなってるのが分かる…
血中に酸素が取り込まれる事で
体中の血管、筋肉が少しずつ強化されているのを感じ取った私は、庭の松の木の隣にある大きな岩に近づいた。
…そしてまた、昔お父さんに教えてもらった事を思い出した。
"「いいか、雪は雪でも
色んな種類の雪がある。
粉のように軽い粉雪、
ちぎった綿のような大きさの綿雪、
玉のような形をした玉雪、
灰のようにひらひらと降る灰雪、
水分を多く含んだぼたん雪…
ちゃんとそれぞれ特徴があって
見える景色も違ってくる。
もいつかきっと、
その違いが分かるようになるはずだ。
お父さんと一緒で、も雪が大好きな子だからな。」"
そうだよね、お父さん…。
私、今ではもう、
雪を見ただけで種類を識別できるようになったよ…?
それに、お父さんが言ってたように
雪と一体になれてるような感覚も理解できたよ。
今、降っているのは粉雪で
静かに降り続ける雪が、私の体内に入っていくような感じと
粉雪みたいに、心も軽くなっているような…
不思議とそんな感じがしていた。
全集中の呼吸をした状態のまま
私は無意識に刀を抜き、岩の前に構えた。
『雪の呼吸、壱ノ型……粉雪斬り…』
粉雪のように軽く、
そして速く刀を横一文字に振ると
目の前にあった岩が紙を切る時のように
スパッと刀が入って……
岩を上下真っ二つに斬り裂くことができた。