第5章 呼吸
でも私は、お母さんと違って
今でも雪が大好き。
お父さんがいなくなったのは
凄く悲しいし寂しいけど…
雪が降った時は、何だかお父さんが
私のそばにいてくれるような、不思議な感覚がするの。
私を天国から見守ってくれているような気がして…
幼い頃の楽しかった思い出が自然と思い出せて
お父さんの愛情が今でも私の心に残ってる…
だから私は雪が好きで、体の芯からポカポカと暖かい気持ちになれるんだ。
「…、お前は…
元の時代に帰りたいと思うか?」
『…?いいえ。全く。』
「だが…、お前の父は…」
『あー…。すみません、言ってなかったですね…
両親はもう死にました。
だから家族はいないんです。』
「っ…、悪かった……、俺はまた無神経な事を…」
『ふふっ、大丈夫です。気にしてませんから!
まぁ、正直に言うと
時代の変化に戸惑うことは何度もありました…。
人喰い鬼とか、私がいた時代には存在しませんし。』
「その平和な時代の方が危険は少ないし、鬼に殺される心配もない。
この時代より、科学も発展しているだろうから
生活に不便を感じることもないはずだ。」
『そうですね…、生活のし易さで言えば
元いた時代の方が楽で、便利な物も沢山あります。
でも私は……、この時代で生きていきたいです。』
簡単に人と連絡を取れるスマホもないし
移動手段のバスや地下鉄もない、
お洒落なカフェもないし、
ゲームセンターやカラオケのような
娯楽施設だってないけど…
『この時代の人達は
みんな私に優しくしてくれて…
それが凄く嬉しかったんです。
だから私も、この時代の人達のために役に立ちたいって…
絶対に役立つんだって心に決めてます。
元の時代に、何の未練もありません。』
…冨岡さんには、
私がこの時代で生きていくと選んだことを
ちゃんと分かって欲しかった。
私の家族の事を気にしてくれていたから
冨岡さんはきっと、私を助けたのは
本当に正しかったのか…と、そう思っているような気がした。