第5章 呼吸
既に中庭の地面には、
薄らと雪が積もり始めていて
緑の松の木にも雪が付着している具合がすごく綺麗で、庭一面、幻想的な雪景色が広がっていた。
雪が降ったことで、興奮状態の私は
履いていた靴下を脱ぎ、裸足で中庭に降り
頭上を見上げて、空から降ってくる雪を眺めた。
冨岡さんとの稽古で汗ばんだ体を冷やすのに
心地の良い冷たさの雪…
まるで雪と一体になれているような…
不思議とそんな感覚がした。
「……何をしている。」
『あっ!冨岡さん!!
見て下さい!雪が降ってますよ!雪!』
「それは見れば分かる…。
お前が裸足の状態で庭に立っている理由が分からないんだ。」
…え、なんでそんな引いた目で見てるの?
私がやってる事って…、そんなに変…?
「茶を用意したから戻って来い。
お前を見てるだけで寒くなる。」
『あ、はい……、すみません…』
お茶が載せられたお盆を持ったまま
呆れ顔をしている冨岡さんにそう言われた私は
すぐに通路に戻って、靴下を履き直した。
「は…雪が好きなのか?」
『はい…。
こんなに綺麗な雪景色を見るのは初めてなので…
不快な思いをさせてしまって…すみません…』
「いや…。ならば茶はここで飲もう。」
『えっ…、でも…』
冨岡さんは持っていたお盆を通路に置いて
私の隣に腰掛けた。
「俺は毎日この庭を見ているが
雪が降り積もると、また違った景色に見える…
悪くないな。」
お茶の入った湯呑みを持って
真っ直ぐ庭を見つめている冨岡さんの横顔は…
初めて会った時と同じように
とても綺麗だと思った。
その青い瞳にも、白い雪が反射していて
キラキラと輝いているように見えたから…
目を逸らすことが出来なくて
ずっとこの横顔を見ていたい…
そんな風に思っていると
私の視線に気付いた冨岡さんは
急に私の方に視線を向けた。