第5章 呼吸
『いやいや、私の負けですよ。
冨岡さんに一撃すら与えられなかったんですから。』
「水の呼吸を出さなければ
俺はお前の技を確実に喰らっていた、だから俺の負けだ。」
『いやいや、
それでも冨岡さんの負けにはならないですよ。』
「いいや、呼吸を使わないという約束を破った俺の負けだ。」
『だから…負けじゃないですって…』
「俺の負けだ。」
『…。』
…本当に頭固い人だな!!!!
その後もしばらく
勝ち負けの言い合い合戦が続いたけど、
私が何を言っても
負けだ負けだと言い返してくる冨岡さんに
言い返すのが面倒になってきた私は、仕方なく彼の言い分を認めることにした。
…心の中では全然納得してなかったけどね。
『…あ、そういえば私
水の呼吸の型って初めて見ました。
さっきのは漆ノ型、でしたっけ?全部で何種類あるんですか?』
「基本は拾ノ型までだが
俺は独自に拾壱ノ型を使用する。」
『独自に…ってことは、
自分で作った型ってことですか?』
私の質問に、黙ったまま頷いた冨岡さん。
流派によって型の数はそれぞれ異なるって本で読んでたけど、自分独自の型を作ることも可能なんだ…。
私も自分で雪蓮華の技を作ったけど
使えるようになるまで凄く時間を要したし
きっと冨岡さんも、相当苦労して拾壱ノ型を編み出したんだろう。
それにさっき見せてもらった漆ノ型だって
凄く綺麗だった…
木刀の動きから
本当に水が出ているように感じたし
静かに流れる水のような技は
冨岡さんの雰囲気にピッタリだと思った。
『あのっ…、もっと水の呼吸の型見たいです!
呼吸を身に付ける為の参考にしたいので!』
「…。」
『だ、だめ…ですか…?』
正面に片膝をついたまま向き合っている冨岡さんにお願いをすると、何故か返事がなくて…
不躾なお願いしちゃったかな…?と不安に思っていると、彼はスッと立ち上がった。