第5章 呼吸
この何十回も繰り返す突き技に
冨岡さんがどう対抗するのかは分からないけど
…怪我をさせたら全力で謝ろう。
私自身、この技を人に使うのは初めてで
いつもは打ち込み台に向かって放つだけだったから。
…と、思っていると
冨岡さんは両手で握っていた木刀の刃先を私に向けてきた。
「水の呼吸、漆ノ型・雫波紋突き…」
『!?わっ……、うわッ…!?』
冨岡さんの木刀から出たのは
名前の通り水のような太刀で…
水面に石などを投げ入れた際にできる、輪のように広がる波の模様を突くような技を出してきた。
そんな技を出されるとは思わなくて
私の雪蓮華は相殺されてしまい…
『っ、い…ったぁ…』
空中で技を出し切った私は
冨岡さんの技に驚かされて、受け身を取ることも出来ずに、バタンッと
音を立てて道場の床に落ちてしまい、
冨岡さんはそんな私の元に慌てて駆け寄ってきた。
「っ、…!大丈夫か!?」
『だ、大丈夫です…、でも……
水の呼吸は使わないって言ってたじゃないですか!!
ずるい!!』
「……あ。」
『あ、じゃないですよ!!!!
忘れてたんですか!?』
「いや、確かに気をつけていたんだが…
お前の技を見た時、身の危険を感じて…
気が付いたら技を出していた。」
…ってことは、冨岡さんが無意識に技を出す程
私の技が効果的だった…のかな??
「…。」
『っ、は、はい…』
座り込んだ状態の私の目の前に
冨岡さんは片膝をついていて…
普段より少し近い距離にドキッとしていると
冨岡さんは私の頭の上に、ソッと手を置いた。
「素晴らしい剣技だった…、俺の負けだ。」
『っ…』
どうしよう…
なんか泣きそうだ…
こんな風に褒められると
今まで自分が我武者羅になって鍛えてきたのが
無駄じゃなかったんだって…
実感みたいなものが湧いてきて、嬉しさのあまり
涙がこぼれ落ちそうだったけど…
…私はすぐにハッと我に帰った。