第5章 呼吸
…しのぶちゃんが言っていたように
体格や力では、男の人には敵わない。
でも、女の人には女の人にしかない武器がある。
しのぶちゃんのように、
体が小柄で、鬼の首を切る腕力がなくても
私では到底追いつけない速さを身に付けて
薬学を学び、毒を使って鬼を倒しているんだから…。
例え力では敵わなくても…
絶対に諦めちゃだめなんだ。
…諦めの悪さだって、私の武器の一つなんだから。
『すぅーーッ…、はぁ……。
せめて一撃だけでも……当てにいくつもりで行きます。』
「臨むところだ…、かかって来い、」
…しのぶちゃんが教えてくれたこと、
カナヲちゃんと一緒に鍛えたこと、
今それを、存分に発揮する時が来た。
『はぁッ!』
私は、先程よりも早く木刀を振り回し
冨岡さんへ攻撃を仕掛けに行った。
私の上がった速度に
冨岡さんは少し驚いていたけど…
まだまだ攻撃を交わすことに余裕がありそうだった。
それに
交わしながらでも、私に太刀を振る余裕もある…
先程と同じように攻防を繰り返していると
冨岡さんは少しだけ大きく木刀を振りかぶった。
『!!』
ここだ…、やっとチャンスが来た。
冨岡さんが木刀を振り下ろすタイミングに合わせて
私は床を蹴って、空中に飛び上がるように避けた。
そしてそのまま冨岡さんの動きをよく見て
空中から木刀を突き出した。
『乱れ突き……、雪蓮華…!』
「っ…」
…これは、私がこの時代に来てから編み出した技。
元々、剣道には片手だけで出す突き技があって
私はその技が得意だった。
胴と胸、喉元の3箇所だけに突く技だったけど
しのぶちゃんにこの技を見せたら
もっと突く回数を増やしてみては?と提案され、出来上がったのが今出した乱れ突きだった。
蓮華は春に咲く花だけど
突き動かされる刀の動きが、蓮華の花が散る様子と似ている…、
さらに、この乱れ突きは
花びらが散る様にも見えるけど、まるで吹雪が吹いているような景色にも見える…
そんな理由で、雪蓮華と名付けられた。