第5章 呼吸
しのぶちゃんに書いてもらった地図を見ながら、冨岡さんの屋敷を目指して歩いている私は
フッと空を見上げると、今日は雲が分厚くて
少し薄暗い天気だった。
歩きながら自然に出る息は白くなり
外気温はかなり低いと思うけど…
なぜか私は、あまり寒いとは思わなかった。
…ひょっとしたら今日は
雪が降るかもしれない。
私がこの大正時代に来てから3ヶ月ほど経ち、
季節が変わったとしても、不思議じゃないほどの時間が過ぎた。
毎日忙しくさせてもらってたから
時の流れの早さを実感して、そのまましばらく歩いていると、漸く冨岡さんの屋敷が見えて来て、門の前で立ち止まった。
『表札ないけど…ここ…だよね…?』
近くに別の屋敷は無さそうだし
私は門の隣にあった扉をあけ、そこから中に入った。
『お邪魔しま〜す……、!?!?』
視界に飛び込んできたのは
立派すぎるほどの立派なお屋敷…。
蝶屋敷もかなり大きいけど
それは傷を負った隊士の人達の世話をするからで
病室として使用する部屋が多い。
しのぶちゃんから聞いた話だと
冨岡さんは一人暮らしをしているらしいけど…
……私が令和で暮らしていたボロアパートとは
雲泥の差があって、大きさなんか桁違い。
唖然としながら屋敷の外観を見渡して
冨岡さんの姿を探しながら歩いていると
立派な松の木が植えてある中庭を見つけた。
『うわぁぁ……、何なのこの屋敷…
デカ過ぎ、広過ぎ…』
あまりにも立派すぎて呆気に取られていると
背後から男の人の小さな声が耳に入って来た。
「…誰かと思ったらお前か。」
『ひっ…!?と、冨岡さん!?』
…いつの間に私の後ろに来てたの!?
気配が全くなかったんですけど!?!?
『び、びっくりさせないで下さいよ…』
「俺の気配に気付かないとは、まだまだ修行が足りないな。」
くぅ……く、悔しい…。
確かにその通りだとは思うけど
冨岡さんのように、柱の人は気配を消すのが上手すぎるんだよ…
しのぶちゃんにも、何度同じ事で驚かされたか…。