第5章 呼吸
『しのぶちゃ〜ん…、ちょっといい…?』
しのぶちゃんの部屋の前で声を掛けると
中から返事が聞こえて来て
私はずっと気分が下がったまま、部屋の中に足を踏み入れた。
「どうかしましたか?
なんだか落ち込んでいるようですけど…」
しのぶちゃんからの質問に
私はアオイちゃんに先程話したことと同じ事、
…プラス、アオイちゃんから聞いた事を話した。
「う〜ん…
そんなに落ち込む必要はないと思いますが…」
『落ち込むよ〜…。
柱の人に抱っこされて運んで貰ったとか…
申し訳なさすぎる…』
「きっと冨岡さんは何も気にしてませんよ。
むしろ…」
『??むしろ…?』
「…。いえ、何でもないです。
屋敷の場所、すぐ地図に書きますね?」
しのぶちゃんが何か言いかけてやめたのは気になったけど、私は冨岡さんに迷惑をかけた事にずっと落ち込んでいたから、突っ込んで聞く余裕はなくて、
スラスラと地図を書いてくれているしのぶちゃんの様子を
黙ったまま見つめて待っていた。
「はい、書けました。
歩いて40分くらいの距離ですが、大丈夫ですか?」
『うん、全然余裕。』
…たぶん、令和にいた頃の私なら
遠い!って、文句を言いたくなってたかもしれないけど
この時代に来てから、鍛錬のおかげで体力もついたし、長距離を歩くのも走るのも、全く苦ではなくなった。
…まぁ、そもそも自転車や車がこの時代の日本には
あまり普及されていないようだから
徒歩しか交通手段がないんだけどね。
『ありがとね、しのぶちゃん。
じゃあ早速行ってくるね?』
…怒られないか超絶不安だけど。
「あ、さん、
渡したいものがあるので、玄関で少し待っててもらえませんか?」
『は〜い。』
一度自分の部屋に戻って
炊事をしていた時に着てた割烹着を脱いでから
私は玄関でしのぶちゃんが来るのを待っていた。
でも、しのぶちゃんが来る前に
アオイちゃん、キヨちゃん、スミちゃん、ナホちゃんがわざわざ見送りに来てくれた。