第3章 積極
……いや、そんな事ない。
だって、目の前にいる冨岡さんは
無表情だけど、視線を移動させることなく
真っ直ぐに私のことを見つめている。
しのぶちゃんのように
優しい言葉をかけてくれることはないけど…
私が話し出すのを、静かに待っててくれているんだ。
しのぶちゃんや冨岡さんのように
柱、と呼ばれている人達ことを、隊士の人達はすごく怖がってた。
強すぎて恐れていた。
目付きだけで人を殺せそうな人もいる、とか聞いた事があるけど…
一部の隊士は、柱を心から尊敬しているようだった。
きっとその人達は
私と同じで、柱の人の優しさを見た事があるんだろう。
根は優しい人達だと…
そう気付いているから、柱を尊敬しているんだ。
『冨岡さん…、私の事を話す前に
聞きたいことがあるんですけど…、いいですか?』
「??」
『どうしてあの山で
私の事を助けてくれたんですか…?
もし何か…理由があるなら…』
「特にない、救える命を救っただけだ。」
『あ、はは…。そうですよね…』
…間髪入れずに即答された。
まぁ、あの時の状況を思い返してみても
山には隊士さん達の遺体が沢山あったし
上官である柱なら、私も鬼殺隊の部下の1人だと思われて、
死にそうだったから助けただけなんだろう。
「だが、あの日…
お前が鬼に放った言葉が、今も耳から離れない。」
『ん?なんか言いましたっけ…?』
「"諦めないことの大切さを教えてくれて
ありがとう"と…。鬼に礼を言う奴は初めて見たから
どんな奴がそんなことを言ったのか…
少し興味が湧いたから、助けたのかもしれない。」
『!?!?
き、聞いてたんですか!?!?』
嘘でしょ…!?
あんな負け惜しみみたいな最期の言葉を…!?
冨岡さんに聞かれてとか、どんな羞恥プレイなの…
『出来れば…
忘れてもらえると有り難いのですが…』
「…。善処しよう。」
…分かった、じゃなくて善処なのね。
全く期待できない。