第3章 積極
「ふふっ、驚いているようですね?冨岡さん。」
「…驚かない方が、無理な話だ。」
あの女は本当に…
俺が山で助けた奴と同一人物なのだろうか…。
とてもそうは思えないほど
女の動きは軽やかで、竹刀を打ち込む力は
華奢な体にそぐわないほど力強い…、
太刀筋も申し分なく、胡蝶の継子が押されているのが一見しただけで分かるほどだ…
鬼殺隊士のように、呼吸を使っているわけではない。
全く無駄がない女の動き…
次々と竹刀を打ち込んでいくその姿は…
あの日、山で見た女の素顔と同様に
綺麗、だと……
目を逸らすことをしたくない…、と
そう思えるのほどの剣技だった。
「ここまで動けるようになったのは
つい最近のことですが、彼女は元々
剣道を習っていたそうですので…
人一倍早く、成長したのだと思います。」
「それは…本人から聞いたのか?」
「えぇ、私は彼女と仲良しなんです。
この2ヶ月間、一度もあの人の様子を見に来なかった、
冨岡さん、あなたと違ってね?」
「…。」
…相変わらず、棘のある物言い方をする奴だ。
たが、胡蝶がこのように言うのも無理はない。
助けた後、俺は胡蝶に手当てや世話を全て押し付け
今日まで様子を一度も伺いには来なかった。
本当は何度も屋敷を訪問しようとは思った、
…だが、あの女の顔を見ると
今まで感じた事のない新たな感情が込み上げてくる気がして、ここに来る事は躊躇していた。
その感情の名前は
2ヶ月掛かっても答えを導き出せず…
恐らく、集中力が欠如しているからだと
己の未熟さを痛感し、俺は自身の屋敷で瞑想を繰り返して集中力を高める鍛錬に励んでいた。
塗り薬を取りに行くという理由が出来た為
仕方なく屋敷を訪れたが
あの女の姿を見たら…
俺の鍛錬の成果は
全く出ていないのだと、思い知らされた。
「はぁ…」
「何故貴方が溜息を吐くんですか?
吐きたくなるのは私なんですけど。」
「いや……。すまない。」
「謝られても困りますよ…。
相変わらず口下手な方ですね。」
胡蝶とそのような会話をしている間も
竹刀を打ちつけ合う音は、ずっと耳に響いていた。