第1章 現代
看護学校に通っていた頃
私はアルバイトをしていたから
家賃は滞納することなく払い続ける事ができてて
生活に多少の余裕はあった。
…でも、母の酒代に回せるお金は少なくて
私が家を出ていけば、当然お酒が買えなくなる。
ひょっとしたら母は
私の存在よりも、お酒が買えなくなる事の方を恐れたのかもしれない。
そして、病院の看護師として働くようになった私は
当然収入も学生の頃より格段に増えたが
私の稼いだお金は、私たち家族の生活費、母の酒代…、
さらにもう一つ、厄介な支出があり
それが、母以外のことで私が頭を抱えていることだった。
「おーい、お邪魔するよ〜」
…うわ、悩みの種が来た。
「あれ、なんだ、お母さん寝てるの?」
『…そうみたいですね。』
…家の合鍵を持っているこの男は
一応、母の恋人。
母は父が亡くなってから独身な訳だし
別に恋人を作るのは自由だ。
でも、毎回恋人とは長続きしていない。
恋人ができても、すぐ振られる事が多く
失恋をする度に酒を飲んで泣き
また新たに恋人を作って…
毎回その繰り返しだった。
「ま、いいや、財布財布っと……、あ、あった。」
『…。』
母に断りを入れず、
目の前にいる娘の私に悪びれも無く
勝手に財布からお金を抜き取ろうとするその男…
毎回ロクな男が恋人にならないけど
今回の相手は、お金に汚い奴で
私は母がこの男にお金を渡しているところを何度か目撃している。
「チッ、なんだよー…2000円しかねーじゃん。」
苛立ちながらお札を抜き取り
服のポケットに仕舞い込んで、財布をその辺に投げ捨てたその男は、家の中を物色し始めた。
「ん〜…、どっかに金しまってないかな〜…」
…ふざけんな、本当に。
母の家でもあるけど私の家でもあるんだ。
人様の家に入ってきて
お金を探す男に、私は苛立って仕方なかった。
でも、母が好いている男だから
怒鳴って追い出したりすると、きっと私が母に叱られる。
穏便に済ませて、早く家から出て行ってもらうおうと決めた私は、自分の財布から10,000円札を出した。