第2章 大正
「見たことがないような服装ですが…、
誰なんです?こちらの女性は。」
「…俺も知らない。」
「はい?
知らない女性をここまで必死に運んできたんですか?」
…確かに、その通りだ。
なぜ俺は…
何も知らない女の為に
息が切れるほど必死で走り続けていたんだ?
「…??…??」
自分の行動が理解出来ず、不思議に思っていると
胡蝶は呆れたようにため息を吐いた。
「とりあえず、治療をしますので
冨岡さんは外に出ていて下さい。
終わったら声をかけますから。」
「…宜しく頼む。」
部屋から出ると、蝶屋敷に仕えている隊士の1人が
お館様からの伝言を伝えに来た。
お館様は、既に鎹鴉から高尾山での一件を聞き
俺が蝶屋敷に来たこともご存じだった。
「水柱様が担当している区域の巡回警備は
本日は炎柱様が代わりに務めて下さったようですので
今晩はこのまま、蝶屋敷で休養を取るように、とのことです。
お部屋の用意と、お食事の用意は済んでますので、ゆっくり休養なさってください。」
「そうか…。世話になる。」
隊士から使用する部屋の場所を聞き
礼を伝えてから、俺は部屋に向かった。
長距離、長時間走り続けていた為
少々体の疲労は感じていて
お館様の心遣いに感謝した。
それと、巡回警備を代わってくれた煉獄にも…。
部屋に入ると、畳の上には布団が敷かれ
ちゃぶ台の上には、おにぎりが数個と、漬物が置かれていた。
有難い、とは思ったが
まだ治療中のあの女のことが気掛かりで
食事を摂る気にはなれなかった。
窓の外に目を向けると、月の光が差し込んでいて
窓辺に近付くと、ここからでも高尾山の一角が見えた。
先程までいたその山を眺めると
思い浮かんだのは、あの女が言っていたこと…
「諦めないことの…大切さ、か…。」
鬼に告げたその言葉…
とても死に際に出る言葉とは思えないが
あの女にとっては大事なことだったのだろう。
俺がそれを知る由もないし、
関係のない事だと、頭の中では分かっている…
だが…