第2章 大正
初めての感情に戸惑いながら
ジッとその女を見つめていると、俺はすぐに我に返った。
…何をしているんだ、俺は。
この女は鬼と戦い、負傷している……
ジッとしたままだった己に叱咤しながら
女の落ちた眼鏡を拾い、掛け直した後
俺は女を背中に乗せて山を降りた。
…ここからだと、胡蝶の蝶屋敷が1番近い。
そこでこの女の手当てを施してもらおうと判断した俺は、一足先に鎹鴉を蝶屋敷に向かわせた。
…事情を説明をしておいてもらう事で
直ぐ女の治療に入れるだろうから。
俺が走っている間も
女の怪我の出血はまだ止まっていないようで…
傷に触らないよう、できるだけ刺激しないよう、
体を揺らさず静かに走り続けた。
それは、難しいことのように思われるかもしれないが、女の体は華奢な上、とても軽く、再び鬼と戦っていたとは信じられなくなった。
怪我の治療をして、目が覚めた時
今度はこいつの話をちゃんと聞けるだろうか…。
俺は、他人の事にはあまり興味がなかったが
この女の不可解なことは、知っておきたい、と…
不思議とそう思った。
……そして、暫く走り続けると蝶屋敷が見え
息を切らしながら門の前で立ち止まると、同じ柱である胡蝶が俺を出迎えた。
「あら、珍しいですね、冨岡さん。
貴方がそんなに呼吸を乱してるなんて…
高尾山からここまで走ってきたのですか?」
「はぁ……はぁ……、
怪我人だ、すぐに手当てを。」
「…私の質問には答えないなんて
少し自分勝手すぎませんか?」
「…。」
胡蝶の嫌味に何も言えずにいると
彼女はため息を吐いた後、俺を門の中へ通した。
「直ぐに診ますから、運んで下さい?」
「…恩に着る。」
黙ったまま屋敷の中へ足を踏み入れ
部屋の一室に入り、俺は背負っていた女をベットの上に寝かせた。