第2章 大正
戊といえば、丁度真ん中辺りの階級だ…
それなりに力を持っていた隊士のはず。
そんな隊士を殺したということは
敵である鬼も……それなりの力を持っていたと言うことか。
強い力を持った鬼ならば、気配を辿れば直ぐに見つけられる…
俺は自分の感覚を研ぎ澄ませ、鬼の居場所を探っていると、少し離れた場所から、刀の響く音が聞こえた。
まだ…生きて戦っている隊士がいるようだな。
だが、いつ鬼にやられてしまうかも分からない為
俺は音が聞こえる方へと走り出した。
その途中で、刀の音が聞こえなくなり
次第に見えてきたのは、木にもたれかかっている人間と
その人物を見下ろしている鬼だった。
「俺の体を真っ二つにしたのは
見事だったと褒めてやる。だから死ぬ前に
最後の言葉くらいは言わせてやるよォ。」
…この鬼、何様だ、と、俺は思った。
十二鬼月でもない鬼が
己の力を過大評価し、慢心していることに
気持ちが苛立った。
ため息が出そうになるのを堪え
鬼を滅殺しようと足を進めた途端、
木にもたれかかっている人物の声が聞こえてきた。
『ありが、とう…ございました…。
諦めない、ことの…大切さ、を……
思い出させて、くれて…。』
「っ…!」
…声からして、恐らく女。
死の間際の最期の言葉が鬼への感謝とは…
何て愚かなんだ。
しかし、そう思うものの
その時の女の言葉が俺の頭の中で何度も木霊していた。
そして、透き通るような女の儚い声は
何故かとても…
心地の良いものに感じた。
「ヒャハハハハハッ、面白れェ女だ!!
鬼に礼を言う奴なんざ、初めて見たぜェ!!
じゃあまずは、腕をもぎ取って喰ってやるからなァ?」
…まずい。
鬼が女にトドメを刺そうとしている。
だが、俺がここに来た以上
犠牲者を増やすわけにはいかない。
俺は直ぐに足を動かし、鞘から刀を抜き
鬼が女に伸ばしている手を、躊躇わずに切った。