第2章 大正
…お父さん、
…お母さん、
…先生。
少し時間が掛かっちゃったけど…
私もそっちの方に行く時が来たみたいだよ。
…先生に会えたら、
私の戦いっぷりはどうだったのか聞いてみよう。
褒めてくれるといいなぁ…。
妖怪の手が私の腕に伸びてくる間に
そんな事を思った私は、そのまま瞼を伏せて目を閉じた。
ザクッ…
「!?……あ?」
妖怪に腕を千切られるという
痛みの衝動に備えていたけど…
私の腕はちゃんと繋がったままで
なぜか妖怪さんの手だけが
まるで切り落とされたみたいに地面に落ちていた。
「……女が一人で、よくここまで堪えた。」
『ぇ…』
誰…?
妖怪さんの声…じゃ、ない……。
私に向けられたと思える言葉を発したその人の声は、すごく落ち着くトーンの声色で…
大きな声では無かったのに、しっかりと私の耳に入ってきた。
伏せていた顔を上げて、その人の姿を捉えると
髪を後ろで束ねていて
半分ずつ色が異なっている羽織りを身に纏った男の人が立っていた。
手には刀が握られているから…
きっとこの人が、妖怪さんの手を切り落としたんだ。
「てめェ!よくもやりやがっ………、は…?」
妖怪が怒鳴っている間に
男の人は目に見えないほどの速さで動いていて…
気がつくと、その人は妖怪の背後に立っていて、
気味の悪い妖怪の顔は、ボトッと地面に落ちた。
…え、何……何が起きたの…?
妖怪の首を…、この人が刀で切ったってこと…?
驚きのあまり目を見開いて
目をパチパチとさせていると、その男の人は
木にもたれかかったまま、動けない私の方を向いた。
『っ…』
…初めてその人を見た時に思い浮かんだ言葉は
眉目秀麗。
私は、人気のイケメン俳優とか
学校で人気の男子学生を見ても
かっこいいとは一度も思った事はなかった。
でも…この人は…
切れ長の目には、濃いブルーの瞳がよく合っていて
何を考えているか分からないような無表情だったけど…
私はその男の人を
綺麗だと……初めてそう思った。