第10章 突風
『ご…めんっ、なさい……
冨岡さんのお気持ちには……応えられません…』
「…っ、理由を……言ってくれ…。」
…言える訳ない。
あんなに醜かった自分の母親のことなんて…
もし冨岡さんに話して知られて嫌われたら…
そう想像するだけですごく怖い…。
きっと立ち直る事なんてできない…。
そんな風に思ってしまうほど
私は冨岡さんの事が…どうしようもなく好きなんだと思い知らされた。
『理由、は……ただ私が……
冨岡さんには相応しくないから、です…。
…ごめんなさい。』
「…、そうか…」
『っ、本当に…ごめんなさい…』
冨岡さんの辛そうに、
そして悲しそうにしている顔を見たくなくて…
私は謝罪をした後すぐに走り出してその場を去った。
勿論冨岡さんは追いかけてきてはくれない。
そんなの当然だよね…
せっかく気持ちを伝えてくれたのに
応えなかったんだから…。
好きな人と両思いだったなんて
奇跡みたいな事なのに、私は自分から幸せになるはずだった奇跡を手放した。
どうして私はこの時代に来ちゃったのかな…
病院の屋上から飛び降りて
そのままあの世に行けたら、こんなに苦しまなくて済んだのに。
恋をする事なんてなかったし
冨岡さんを傷付けることもなかった…。
男の人に夢中だった母親を見て育ってしまったせいで、私は恋をすることすらまともに出来ない…
母は死んだというのに、未だに母への憎しみが消えない…
私は…
あの女の呪縛から、一生解放されないのかもしれない…
そう思いながらひたすら走り続けると
いつの間にか蝶屋敷まで戻って来ていた。
し「あ、さん、お帰りなさい。
稽古お疲れ様でした。」
『っ、…し、のぶちゃ…っ…』
「……?さん…?
どうかしたんですか…?」
『うっ……ひっ、く……
しのぶ、ちゃんッ……、うわぁぁぁーーー…ッ』
「っ…え……」
しのぶちゃんの優しく笑った顔を見たら
もう我慢するのが限界で…
私は彼女に思い切り抱き着いて
子供のようにワンワン声を上げて涙を流した。