第10章 突風
「…、お前の気持ちを聞かせてくれないか。」
『ぁ…、えっ…と……』
どうしよう…
私も好きです、って言いたいのに
上手く口が開いてくれない…
両思いだった事に驚いたけど、驚きよりも嬉しい気持ちの方が何倍も強いはずなのに…。
どうして……好きの一言が言えないのかな…。
「…。何も答えられないのは
元いた時代に想い人でもいたからか?」
『!!…違います……、そんな人…いません…』
令和の時代に好きな人なんていなかった、
彼氏が出来たこともないし、欲しいとも思わなかった。
でも、私がそんな風に思っていたのは…
お父さんが亡くなってから変わってしまった
男にだらしない母親の影響…。
…あぁ、そっか。
あの母親のせいで
冨岡さんからの告白にも素直に喜べないんだ…。
自分が母親と同じように
男の人にのめり込んでしまうほど
恋に溺れていくのが怖いんだ…。
生前のお母さんは
好きな人が出来ると媚を売って
恋人にはとことん尽くしていて…
娘の私から見ても、病気だと思うくらいだった。
フラれた時は荒れに荒れて
大人のくせにギャン泣きをして…
泣くほど好きだったくせに
1ヶ月も経たないうちにまた別の男と恋人になってた。
そんな母親と私は同じ血が流れてる…
私もお母さんみたいに
周りが何も見えなくなるほど恋人に夢中になるのかな…
…そう考えると吐き気がして
冷や汗が吹き出しゾッとした。
『っ、はぁ…はぁ…』
「!?おい、どうした…!?顔色が悪いぞ…!」
『……め、なさ…っ…』
「っ、…?」
全身から血の気が引いて
突然呼吸が荒くなった私を見ていた冨岡さん…
声を聞いただけで心配してくれてるのが分かる…
私はこの人の優しさに何度も救われた…
心から好きだと思えた…
でも……