第9章 修練
「…腹が減っているのか?」
『ううっ……』
…もう消えてしまいたい。
好きな人にこんな醜態を晒しちゃって
冨岡さんが何を思っているのか考えるだけで怖い。
もう絶対呆れられたよね…。
「飯…、食べに行くか?」
『へっ…?』
「嫌ならいいんだが…」
『い、いえ!嫌じゃないです!
でも…お忙しいんじゃ…?』
「この商店街には買い出しに来ただけで
もう用は済んだ。
飯を食べに行く時間はある。」
『そう…でしたか…。
じゃあ…行きたい、です…。』
「そうか。…ならば行くぞ。」
私は、先に歩き出した冨岡さんの半歩後ろを着いていった。
斜め後ろから見える冨岡さんは無表情のまま歩いてるけど、どうやら私のお腹の音を聞いても、呆れている様子は無かった。
一緒にご飯を食べに行くのを誘ってくれたことで
先程までは冨岡さんに怒られて、
冷たい言い方をされて気分が沈んでいたけど
私の心は一気に弾み出していた。
…だってこれって
まるでデートみたいなんだもん。
冨岡さんと2人きりで
何処かに出掛けるのは初めてで…
緊張はするけど、嬉しい気持ちの方が強かった。
ドキドキする胸の鼓動を感じながら歩き続けていると、冨岡さんが半歩後ろにいる私をチラリと視線を向けてきた。
「…先程は悪かった。」
『え…?何がですか?』
「着物を着ていたお前を…侮辱したことだ。」
『あ…。いえ、それは私が悪かったので…。
あんなに綺麗な着物、着るの初めてだから浮かれちゃってたんです…。冨岡さんの言う通り
着物なんて私らしくないし、似合わなかったですよね〜…』
「…そんな事はない。着物姿のお前は…
とても美しかった…。
その髪型も……似合ってる…。」
『っ、え……』
うそ……、私の聞き間違いかな……?
冨岡さん……、私を綺麗だって思ってくれたの…?
それならどうして
私らしくない、なんて言ったんだろう…。