第9章 修練
side 冨岡
俺は今日、任務の連絡がカラスから来なかった為、商店街に足を運んでいた。
刀を手入れする際に必要な打ち粉が切れ
丁度空き時間ができたから、買い物をするのに都合が良かった。
刀の手入れ道具を扱う店に向かい
必要なものを買い揃え、屋敷に戻ろうと店を出て商店街の中を歩いていると
一軒の呉服屋から、同じ柱である甘露寺が出て来るのが見えた。
恐らく彼女も空き時間ができ
時間を潰しているのだろう、と悟った。
俺と同じように、1人で買い出しに来たのかと思っていたが、どうやら呉服店の中には甘露寺の連れもいるようで、彼女はその連れの手を引っ張り、外に連れ出していた。
「っっ……!!!!」
…甘露寺に引っ張り出された人物は
青い着物を身に纏っている女。
俺が不思議な感情を抱いている相手の……だ…。
あの美しい顔を…見間違えるはずがない…
普段の隊服とは異なる着物姿で、眼鏡も外しており
甘露寺と楽しそうに笑い合うの姿を遠目から見ていた俺は…
あまりにも美しいの容姿から
目が離せなかった。
だが、あいつの姿に見惚れているのは俺だけではない…。
道行く男達は、皆の姿を捉えると
頬を紅潮させる者、口元をニヤつかせる者、
声を掛けようか迷っている者…
その男達を見た俺は
とても腹立たしい気持ちになった。
「おぉ…、なんと美しい女性なんだ…」
「あんな美女は生まれて初めて拝むなぁ…」
「顔も美しいが、体の線も申し分ないなぁ。」
……やめろ。
そのような下衆な目で…を見るな…
そんな思考だけが俺の頭の中を占めており
気分が悪くなるのを感じていると
1人の男がに声を掛け
彼女の手首を無理矢理掴んでいた。
「…。」
男がに触れている事に対し
我慢ができなかった俺は、無意識に彼女の元に足が向かい、男の手首を捻り上げていた。
己の背後にを隠しながら
男に対して威嚇をすると、早々にその場を去って行った。