第9章 修練
褒めて貰えるどころか
冨岡さんに迷惑をかけて
挙げ句の果てには、似合わない、みたいな事をハッキリ言われちゃった…。
好きな人にそんなことを言われたことで
尋常じゃないほど胸が痛んで悲しみが溢れ、自分が惨めに思えてならない。
恋というのは
こんなに苦しい思いをすることだったんだ…
…辛くて苦しい思いをするくらいなら
冨岡さんへの気持ちに気付かないままでいたかったよ。
蜜「冨岡さんっ!
眼鏡は私が外すように言ったんだから
ちゃんは悪くないの!!
だからそんな言い方するのは……!」
『いいよ蜜璃ちゃん、私が悪いの。
…ごめんね、せっかく着物選んでもらったけど
やっぱり私には似合わないみたいだから
元の隊服に着替えてくるよ。』
蜜「っ、ちゃん…」
目尻を下げて悲しそうな顔をしている蜜璃ちゃんにそう伝えた私は、呉服屋に戻って、隊服に着替え直した。
呉服屋のおばさんにも謝ったけど
気にしなくていいと快く許してくれて
着物は蜜璃ちゃんがお金を払って買ったものだから、返す必要はないと言われ、綺麗に畳んで持ち運びしやすいように袋に入れてくれた。
今度はいつ、この着物を着る日が来るのかな…
ひょっとしたら、一生来ないかもしれない…。
少なくとも
冨岡さんの前ではもう2度と着れない……
そう考えると、先程冨岡さんに冷たく言われたことを思い出して、また泣きたい衝動に駆られた。
でも、鬼殺隊の隊士が
好きな人に着飾った自分を褒めてもらえなかったからって、メソメソする訳にはいかない…。
やっぱり、冨岡さんへの気持ちは
ずっと自分の中だけに秘めておこう…
そう決め込んだ私は、化粧台に置かれたままになっていたお気に入りの眼鏡を掛け直した。