第9章 修練
普段鬼を倒していても恐怖を感じる時もあるけど、今は目の前の男の人の方が怖い…。
力を入れて精一杯抵抗すれば
余裕でけなせるかもしれないけど、相手は一般人…
あんまり手荒なことはできないから
蜜璃ちゃんも言葉で説得するしかないんだ。
「心配すんなって、用が済んだら…返してやるからよ?」
『っ…!?』
用が済んだらとか
何をする気なのか想像もしたくない…!!
『やめてってば…!!手を離して!!』
「ははっ、嫌がる姿も別嬪だなぁ…?」
蜜「!!もう!!いい加減に…っ…、え…!?」
蜜璃ちゃんの驚く声がしたと思ったら
強く掴まれていた男性の手は
私の手から離されていて…
何が起きたのか不思議に思っていると
私とその男性の間には、見慣れた後ろ姿をした人が立っていた。
「いっ、てててて!!」
「女を無理矢理連れて行こうとするとは…
何とも見苦しい。」
『!!と、みおかさ、ん……?』
その落ち着いた声は何度も聞いたことがあって
視界に入る逞しい背中は、いつも通り半分ずつ色が違う羽織りを身に纏っている…
久しぶりに会う冨岡さんの後ろ姿と、声を少し聞いただけで私の胸はドキドキと高鳴り、胸がときめいた。
「な、なんなんだよテメェは…!!
関係ねぇ奴はすっ込んでろ!!」
「俺は彼女の知り合いで
関係がないのはお前の事だ。
一体どこへ連れて行く気だったのは知らないが…
コイツはお前のような輩が触れていい女ではない。
……早く消えろ。」
『っ……』
「チッ…、くそっ…
かなりの上玉だったってのに…」
手を捻り上げられていた男性は
冨岡さんの力には勝てないと思ったのか
大きな舌打ちをした後、ぶつぶつと文句を言いながら、私達の元から立ち去って行った。
……どうしよう。
助けてくれた冨岡さん……凄くかっこよかった…。
相手を威嚇していたところ、
男性の手を力強く握っている姿、
私を1人の女性として扱ってくれているような台詞…
あまりのかっこよさに、胸の鼓動がうるさくなり過ぎて、口から心臓が飛び出てきそうだ…。