第8章 上官
…しばらくの間走り続けて森を抜けると
漸く御館様の屋敷が見えて来た。
『はぁっ…はぁ、はぁ……、
つ、着いたぁ……』
死ぬ…、疲れすぎて死にそう…。
荒くなった呼吸を整えながら
相変わらずデカすぎな屋敷を眺めていると
屋敷の門から人が出て来た。
『あ、れ…?後藤さん…?』
「え、さん…?どうされたんっすか?
すげぇ息が乱れてますけど…」
『ちょっと、ね…。御館様に、呼ばれたから…。』
少しずつ息が落ち着いてきて
心拍も元に戻ってきていると、後藤さんの背中に乗っている男の子と視線が合った。
『後藤さん、この子は…?
怪我してるみたいですけど…』
「那田蜘蛛山で鬼と戦って負傷した奴です。
これから蝶屋敷に運んで手当てを…」
『…あ、ひょっとして君が鬼を連れてた隊士?』
「ご存じだったんですね。
まぁ、連れてる鬼が人を襲わないって証明できたので、裁判では首の皮一枚繋がった、運のいい奴ですよ。」
『そうなんだ…。』
後藤さんと一緒にいる女性の隠さんが背負っている箱の中には、きっとその鬼が居るんだ…。
鬼は日の光を浴びると、焼け死ぬらしいから。
普段、私が鬼を倒す時
凶暴な鬼ばかり相手にしているから
鬼が放つ特有の殺気みたいなのを感じるようになったけど…
この箱からは、何も嫌な感じがしない。
箱の中にいる鬼の存在は感じるけど
敵意が全く感じられない。
『良かった…。善良な鬼も存在するんだね…』
?「あ、あの……、貴方は…」
『…ごめんね、引き止めちゃって。
後藤さん、この子の手当て宜しくお願いします。
私も後ほど蝶屋敷に帰りますから。』
「はいっ、承知しました!失礼します!」
後藤さん達は、私にペコっと頭を下げると
すぐに森の中へと消えて行った。
走るの早いな〜、と思いなが彼らを見送った私は
すぐにハッとして、御館様に呼ばれていた事を思い出した。