第8章 上官
そんな2人に近付いて声を掛けようか迷っていると、冨岡さんの側にいた、若い男の子が1人の女の子を抱えながら
その場から走り去って行くのが見えた。
『し、しのぶちゃんっ、冨岡さんっ』
「っ、…、なぜここに…」
し「あら、さんも応援に来てくれたんですね?」
『うん…、カラスから伝令があって
負傷者の治療を手伝う為に…』
し「丁度よかったです。
先程男の子が女の子の鬼を連れて逃げ出したので
追いかけて貰えませんか?
冨岡さんは、何故か彼らを庇って逃しちゃったんですよ。」
『え…?』
…冨岡さんが鬼を逃がした?
鬼ならすぐに倒さないと
また被害が出ちゃうかもしれないのに…?
『と、冨岡さん……、本当なんですか…?』
「…。」
…何も言ってくれない。
何か理由があるなら教えて欲しいのに
冨岡さんは無言を貫いたまま、しのぶちゃんに剣を構えていた。
し「完全な隊律違反ですよ?冨岡さん。
さん、こんな人は無視して
先程の鬼を早く追って下さい。」
『あ…、うん。分かっ…』
「…、お前は隊士達の治療をする命でここに来たのだろう。ならば鬼を追うのではなく、隠部隊の所に行け。」
『え…、あ、あの…?』
し「…さん、今は私の指示に従って下さい。」
『へっ…?』
「、胡蝶ではなく俺の言う通りにしろ。」
『えぇ…!?』
…一体どっちの命令に従えばいいの!?!?
決められないんですけど!?
柱の2人からの無茶振りに混乱していると
しのぶちゃんはため息を吐いて、刀を鞘に収めていた。
し「まぁいいでしょう…。
鬼は私が追いますから、さんは負傷者の手当てを。」
『う、うん…。』
しのぶちゃんは私の返事を聞くと
すごい速さで木の上に移動し、先程の男の子が逃げた方に向かっていった。
…そして、冨岡さんも胡蝶さんを追いかけて
すぐにいなくなってしまった。
『…。もう…!私を困らせるだけ困らせて
居なくなっちゃうとかひどいよ!!』
私は機嫌を損ねたまま、再び山の中を駆け回り、生存者を探しては治療をして……
落ち着く頃には、朝日が昇りかけていた。