第1章 現代
『…分かりました……、もう、いいです…
お世話になりました…』
私はもう反論するのを辞めて
病院長に小さく頭を下げてから部屋を出た。
『…も、う……疲れた…』
…どうしてこんな目に遭わなきゃならないんだろう。
私が何か悪いことをした?
誰にも甘えず、ずっと1人で頑張ってきたのに
どうして…
母を失ったのに、まだ不幸が続くの…?
今後病院で働けないなら
看護師資格を持っていたって意味がない。
私は一体何のために…
色々なものを諦めて、頑張ってきたんだろう…。
この先の未来に全く希望を見出せなくなった私は、フラフラとした足取りで更衣室に向かい
着替えを終え、たまたまカバンに入っていたチラシの裏に
退職届を一筆書いた。
それをロッカーの扉に磁石で貼り
仕事着だった看護服を近くのゴミ箱に捨てた。
明日から私は、どうやって生きていくんだろう…
しばらくは僅かな貯金と退職金で生活できるけど
すぐに新しい仕事が見つかるとは到底思えない…。
それに、新しい家も探さなきゃいけない。
住んでいたボロアパートには
これからも住み続けるなんて、私には無理だった。
…あんな家に住んでいたら
母が死んでいた時のことを、鮮明に思い出して気分が悪くなる気がしてならないから。
『……はは、』
仕事を実質クビになったことで
もう私には何も残っていない…
もう…これからの人生を生きたいとは思えない…
そんな考えが頭の中を占めると
自嘲的な笑みが溢れてきて…
無意識に足が動き、私は階段を登り始めていた。
こんな人生…
もう…終わらせよう…
屋上にたどり着いた私は
落下防止のフェンスを超えて、地上が見渡せるように
コンクリートの淵へ立った。
この病院は11階建。
ここから飛び降りたら、確実に死ぬ。
でも不思議と…死への恐怖はなかった。
死ぬことよりも
これから先、何も兆しが見えない未来を生きていくことの方が何倍も怖い…
暗闇しかない人生を歩んでいくなら
ここで終止符を打つ方がよっぽどいい。