第8章 死神と水の呼吸
その日の夜、寝静まった水柱邸だったが、柊は目が覚めた。
昼間の義勇との会話が頭をよぎる。
『俺は柱ではない。』
(どう言う意味だ?資格?不正?そんな事ができるような組織ではないだろう)
考えても答えは出ない。水でも飲もうと部屋を出る。
義勇の部屋の前を通った時ふと漏れる声が聞こえる。
「う……うぁ…」
「義勇?大丈夫か?……入るぞ。」
襖を静かに開けて義勇の部屋を覗き込む。
そこには刀を側に置き壁際で片膝を抱え込むようにして座って寝ている義勇の姿があった。部屋を見る限り布団を敷いた形跡はなくいつでも出立できるようにズボンもシャツも隊服だ。まるで野営中のようだ。
「…う…ごめ…ん…。ね…さん…。さび…と…。」
ごめんなさいと何度も繰り返す義勇。相手は義勇の姉とサビトという名の男。きっと義勇にも辛い過去があるのだろう。柱の話ももしかしたらこの過去と何か関係があるのかもしれない。
「義勇、起きろ。…義勇、義勇!!」
肩を揺すり名を呼ぶと、パッと目を見開き、虚な目でこちらを見る
「…ねえさん?蔦子、ねぇさん…?」
その姿が幼な子のように見えて柊は義勇を抱きしめる。
「大丈夫だ。義勇…私が側にいる。大丈夫だから。」
震えながら縋るように柊の襟を掴む義勇を優しく背中をさすり、落ち着かせる。
「……。」
だんだんと落ち着きを取り戻し、ゆっくりと離れる義勇
「すまない。手間をかけた。」
さっきまでの態度とは違いスンといつもの無表情に戻る
「義勇、君は布団で寝ないのか?」
「…怪我や病気以外で寝ることはない。」
「…眠るのが恐ろしいか?」
ハッと目を見開き目が合う。そして泳ぐようにまた逸らす義勇。
こくりと無言で頷く
「無理に話す必要はない。誰にでも言いたくない事もある。だが、私は死なない。君が寝ている間に死ぬことは決して無いと誓うよ。だから安心しろ。」
「っ!!……そうか。」
力なく笑う義勇はとても儚く、美しいと思った。