第8章 死神と水の呼吸
水柱邸に来てから数日が経った。
順調に陸ノ型まで習得した。だが、型を習得しただけで義勇のように流れるように自然とその場その時に合わせた型を出すには実戦が足りない。
しかも時々、切り口が凍りつき、義勇の木刀を何度か氷漬けにしてしまった。斬魄刀の力と水の呼吸を合わせて戦えば確かに強くなるが、チャクラの力は有限だ。水の呼吸だけを使えるようにならなければ戦場で力尽きてしまう。その度に誰かと口付けをしなくてはならないと思うと考えるだけでため息が出る。
「……考え事か?」
打ち込み稽古中だったが見かねた義勇が声をかける。
「すまない。どうしても斬魄刀の力が前に出てしまう。純粋な水の呼吸を使いたいのだが。」
「ダメなのか?」
「ダメではないのだが…。」
しのぶにチャクラの話はしない方がいいと言われているのでどうしたものか、と考える柊。
「いっそのこと蘭ではない日輪刀をもう1本作ってもらうというのも手だが。」
義勇が提案すると
「それだけはダメなんだ。蘭は私の魂であり、誇りだ。ともに戦うと魂に誓った。」
「そうか、すまない…軽率だった。」
「違うんだ。理由を話せない私が悪い。呼吸自体は日輪刀じゃなくても使えるんだ。木刀で感覚を掴んで行くしかないな。」
「一から教えるのに比べて柊は既に剣士として完璧だから今から違う型を体に馴染ませるのは大変だろう。急ぐ必要はない、柊は呼吸無しでも十分に強い。それに…お前には水柱になってもらわなくてはな。」
「…それは義勇が死んだ後の話か?そんな不吉な継子の話なら聞きたくない。」
「違う。柱になり得る実力を持つ者が現れたなら俺はすぐにでも水柱を降りるつもりだ。それは御館様にも伝えている。…俺は…柱ではない…。」
儚げに、でもどこか決意に満ちたその瞳を持つ義勇に柊は何も言えなかった。