第1章 死神と鬼狩り
中に入るとすれ違い様に杏寿郎に挨拶をする者がほとんどで、皆尊敬の眼差しを向けている。
その中に顔半分を隠して同じような服を着ている者が何人か見て取れた。
柊の視線の先を見ていた杏寿郎は
「あの者たちは『隠』と言ってな。実際に刀を振って鬼狩りはできないが、隊士が斬ったあとの始末や、避難誘導など様々な仕事を担ってくれている。俺たちが安心して戦えるのは彼らのおかげなのだ!」
杏寿郎の言葉にへぇと感心した。死神にも序列があって『隠』のような役割はないが新人なんかがその役割だ。
隊長クラスにもなると『席』を与えられてない隊員に対して使い捨て扱いをする人も多いと聞く。
「杏寿郎。君はいい上官だな。」
自然と言葉が出る。嫌味でもおべっかでもなく心から出た言葉だった。
その言葉と共にふんわりと笑いかけた柊の顔を見て杏寿郎は目を更に見開く。
だがその笑顔も一瞬で、すぐにまた無表情に戻った。
「なんだ?」
杏寿郎がじっとこちらを見てくるので問いかけると
「君はっ!、、いや、、なんでもない。」
歯切れの悪い言葉だったが気にすることなく屋敷の奥へと進む。
「先ほど斬った鬼の討伐隊が編成されていたからな。今日は人が多い!すまないが俺と同室になるが構わないだろうか?」
「大丈夫だ。屋根がある場所があるだけでありがたい。」
隊長クラスが一般人。しかも死神と名乗る得体の知れないものを同じ部屋にするなんてありえない。あり得るとするとそれは監視だ。
杏寿郎の剣の腕は充分。斬魄刀を抑えられるとなると体術戦。女と男では確実に押さえ込まれる。
そんな大義名分を捧げなくともおとなしくしているが、この青年は私なんかにも気を遣ってくれる優しい者なのだな。
「この刀は斬魄刀と言って、名は氷雪の蘭だ。
我ら死神にとって魂そのもの。大事にしてくれると助かる。」
そう言って鞘に入れた斬魄刀を杏寿郎に差し出す。
「ん?なぜ俺に?」
杏寿郎はキョトンとして首を斜めに傾ける。
「なぜって。私のような怪しいものが武器を持っていると不安だろう。監視のためにも武器を奪う。それが一番だろう?」
「……くっ。はーっはっはっ!!」
一拍したあと、杏寿郎が豪快に笑う。
「そんな事を考えていたのか!はーっはっは!安心しろ俺はリーン!君を信用している!その刀はしっかり持っていろ」
