第5章 死神とお館様
それから簡単な挨拶をしてお館様との顔見せは終了した。
この後は蝶屋敷という蟲柱が管理している屋敷に向かう。
私の稀血について調べてくれるそうだ。2〜3日滞在したあとは水柱の元へと向かう。
もしかしたら次に杏寿郎と会えるのはしばらく先になるのかもしれない。もっと側にいたい。温もりを感じていたい。これは我儘なのかもしれない。
杏寿郎が屋敷を出ようと歩き出すのでそれに続く。
「………。」無言の杏寿郎を見て不思議に思っていると歩みを止める杏寿郎。
「杏寿郎…?どうかしたのか?やはりお館様へ粗相があったか?」
「…いや、粗相はなかった。」
なら何故そんな顔を?
「…リーン柊。君にも名前があったんだな。」
そういえば一度も下の名は名乗ってなかった。
「似合わないだろ?私にはあまりにも可愛いすぎる名だ。呼ぶのはおじいさまだけでリーンと呼ばれる事に慣れているから下の名前を名乗る事は滅多にないんだ。」
その祖父も隊舎内ではリーンと呼ぶし、正式に死神になってからはお互い忙しく家で顔を合わせる機会が少なくなり名前を呼ばれる事も減ったがな。
「俺は…君のことを何も知らないのだな。名前すらも。」
杏寿郎が悲しそうな顔でそう呟く。