第5章 死神とお館様
杏寿郎side
お館様との話も終わり、次の蝶屋敷へと向かうため歩き出す。
先ほどの会話を思い出す。
『「リーン 柊と申します。」』
あの言葉には驚いた。リーンに名前があることに。
柊…。なんて綺麗な名前だ。彼女にとても似合っている。だが……。
「杏寿郎…?どうかしたのか?やはりお館様への粗相があったか?」
柊が不安そうに問いかける。
「…いや、粗相はなかった。」そう言うとなら何故だ?と不安そうにする柊。
「…柊リーン。君にも名前があったんだな。」
なんだか嫉妬のような物言いになってしまった。彼女のことは自分が一番知っているそう思っていたのに。
「似合わないだろ?私にはあまりにも可愛いすぎる名だ。呼ぶのはおじいさまだけで柊と呼ばれる事に慣れているから下の名前を名乗る事は滅多にないんだ。」
そうつらつらと話す柊だが杏寿郎の心はドロドロと落ち着かない。
「俺は…君のことを何も知らないのだな。名前すらも。」
そう言うとハッとしたのち曇る柊の表情。
「…つまらない話しかない。それでも…知りたいか?」
黙って頷く杏寿郎。柊の瞳は不安なのか揺れている。
2人して先ほどまでお館様がいた縁側に腰掛ける。
もうこの屋敷には杏寿郎と柊しかいない。
「そもそも、私に名前は元からないのだ。出生届も出されていなかったらしく、生みの母と父からは忌み子、バケモノ。そう呼ばれていた。」
衝撃の事実に俺が言葉を失っていると、
「生まれた日も年齢も知らなかったんだ。死んで初めてあの世で死神から知らされた。七夕の日に生まれ、8歳で死んだと言うことを。」
1度目の人生はこの髪色と目の色が気味悪いと罵られ暴力を受けそして死んだ事を聞いた。
そして2度目の140年の長い死神の人生の話が柊の口から綴られる。